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VOL58「相続登記の申請義務化」所有者不明土地対策の一環として、相続登記の申請を義務化 執筆:住宅評論家/本多信博

2022年7月20日

管理不全の空き家の画像(執筆者撮影)

管理不全の空き家は近隣に迷惑をかける可能性が高い(執筆者撮影)

2016年度の地籍調査で、所有者の所在が確認できない土地が日本全体の約20%を占めていることが明らかになった。所有者不明の土地が増えれば、大規模災害時の復興事業への支障、土地の管理不全で近隣に迷惑を掛けるなど、様々な問題を引き起こす。所有者不明土地が増える主な原因とされているのが、相続時の未登記問題である。相続が発生しても価値の低い土地などでは、相続登記がなされないことが多い。そして相続人が複数であれば土地は共有となり、その共有者にも相続が発生してしまうと相続人の数がさらに増え、共有者間の連絡がつかなくなってしまう問題である。

所有者不明土地の解消に向けて法律を整備

所有者不明土地問題に対する法制審議会の議論は、その発生予防、利用促進、不明土地の解消という3つの観点から進められてきた。そして、2018年6月には「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が制定された(2019年6月施行)。利用されていない不明土地について公共事業における収用手続きの合理化・円滑化など利用促進の仕組み、所有者の探索を合理化する仕組み、所有者不明土地を適切に管理する仕組みが設けられた。

次に、2019年5月には「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」が制定された。これは表題部所有者欄の氏名・住所などが正常に登記されていない土地について、所有者の探索に関する制度の創設(2019年11月施行)、探索の結果を踏まえて表題部所有者の登記を改める規定(同)、探索しても所有者を特定できなかった土地について、適切な管理を可能とする制度の創設(2020年11月施行)が盛り込まれている。

2024年4月から相続登記の申請を義務化

そしていよいよ、2021年の通常国会では「所有者不明土地に関連する法律」(不動産登記法、民法(物権法・相続法)など20以上の法律)の改正がなされ、同年4月28日に公布された。施行日は各項目によって異なるが、相続登記の申請義務化は2024年4月1日から施行される。

現行法では、相続が発生しても相続登記の申請は義務ではない。これが所有者不明土地増大の元凶と見られている。そこで相続発生を登記に反映させるため、相続によって不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に土地・建物の相続登記を申請しなければならないことにした(不動産登記法改正)。相続人が遺贈(遺言によって遺産の一部またはすべてを譲ること)により所有権を取得した場合も同様となる(後述)。

また、この登記後に遺産分割がなされたときは、その遺産分割により相続分を超えて所有権を取得した者は、遺産分割の日から3年以内に所有権移転の登記申請をしなければならない。これら登記申請の義務がある者が、正当な理由なしにその申請を怠ったときは、10万円以下の過料に処されることになった。

相続人の負担軽減のための措置も

以上が、相続登記申請義務化の骨格だが、これに付随する新たな制度も創設された。相続登記が義務化された相続人の負担を軽減するためのもので、「相続人申告登記」が創設された。これは登記義務を負うことになった相続人が3年以内に相続が発生したこと、自分が相続人の一人であることを登記官に申し出れば過料の制裁を免れるというもの。この結果、従来からの①遺産分割前の法定相続分での登記、②遺産分割を経て行われる登記に加え、③相続人申告登記が加わることになる。ただし、相続人申告登記は共有持ち分割合の記載がないので対抗要件とはならない。ちなみに、この申告登記は登記官の職権としてなされるので、「申請」ではなく「申告」となる。

また前述したように、遺贈によって不動産の所有権を取得した者にも相続登記の申請が義務化されたが、これについても相続人(受遺者)の負担を軽減する観点から以下の措置が取られることになった。

すなわち、遺贈による所有権の移転登記は、不動産登記法第60条の規定(登記の共同申請の原則)にかかわらず、登記権利者(受遺者)が単独で申請することができることになった。「登記の共同申請の原則」とは、権利に関する登記の申請は原則として登記権利者(権利を得る者)と登記義務者(権利を渡す者)が共同で行うことをいう。

これまでも判例上は、「相続させる旨の遺言」があれば、遺産分割方法の指定がなされたものと解され、その特定相続人が単独で所有権移転登記手続きができるものと解されていた。これが不動産登記法改正(第63条第3項)で明文化されたことになる。



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