トップ話題の不動産キーワード>VOL.52 全国版空き家バンク:空き家増加の抑制に「全国版空き家バンク」への期待高まる

話題の不動産キーワード

※記載内容は、情報公開時点の法令並びに執筆者による情報に基づいています。

VOL52「全国版空き家バンク」空き家増加の抑制に「全国版空き家バンク」への期待高まる 執筆:住宅評論家/本多信博

2019年10月16日

「全国版空き家・空き地バンク」サイト(アットホーム)

「全国版空き家・空き地バンク」サイト(アットホーム)

2019年4月に発表された「18年住宅・土地統計調査」(総務省)によれば、全国の空き家数は846万戸で、空き家率は13.6%だった。いずれも過去最高だったものの、5年前の前回調査時(13年)からの空き家増加数は26万戸にとどまっている。これは前々回調査時から前回調査時までの増加数63万戸に比べるとかなりのペースダウンとなった。空き家率も前回(13.5%)から0.1ポイントの上昇に収まっている。15年に施行された「空き家対策法」と、それを受けた各市町村の取り組みが功を奏しつつあると思われる。


地方で空き家問題深刻化
「全国空き家対策推進協議会」発足で盛り上がる運動

空き家対策推進強化のための全国組織「全国空き家対策推進協議会」(会長=片岡聡一岡山県総社市市長)の設立総会が17年8月に東京・水道橋の「すまい・るホール」で開かれたとき、副会長に指名された京都府井手町の汐見明男町長はこう語った。「空き家問題は、今解決しなければ5年後、10年後には大変なことになる」――と。


18年調査でペースダウンはしたものの、空き家数が増加傾向を続けていることに変わりはない。特に深刻なのは人口流出が続く地方圏である。18年調査で(表参照)都道府県別の空き家率トップは和歌山県の18.8%。以下、徳島県18.6%、鹿児島県18.4%、高知県18.3%、愛媛県17.5%と続く。この上位5県の5年前の空き家率はいずれも16%台に収まっていたから、人口流出の続く地方で空き家率が高まっていることが分かる。
逆に空き家率が低い都道府県を見ると、最低の沖縄県が9.7%(5年前9.8%)、以下、埼玉県10.0%(同10.6%)、神奈川県10.3%(同10.6%)、東京都10.4%(同10.9%)、愛知県11.0%(同12.0%)といずれも空き家率が改善している。 
つまり、空き家問題は地方の自治体にとってより深刻で、「全国空き家対策推進協議会」の片岡聡一会長が「建前ではなく、本気で取り組む会にしたい」と力強くあいさつしていた姿が今でも印象的だ。「空き家バンク」の設置と運営に取り組む自治体が地方を中心に急増しているのも、こうした事情が背景にあるものと思われる。


図表 空き家率の高い都道府県、空き家率の低い都道府県


「空き家バンク」とは何か
所有者と自治体のニーズから生まれた

「空き家バンク」とは、空き家所有者とその利用希望者とのマッチングサイトのことである。空き家の情報を自治体自ら募集し、地元の宅地建物取引業界団体などの協力を得て一定の調査を済ませた物件が、インターネットを通じて紹介されている。その運営は自治体もしくは自治体から委託を受けた団体によって行われている。


ところで、そもそも空き家バンクが登場してきた当初の背景にはなにがあったのか。それは、空き家の処分や活用に悩む空き家所有者と、人口流出を食い止め、定住人口を増やしたい自治体の思いが「空き家バンク」創設に結実したものと思われる。 所有者にとって、空き家の処分や活用は一般の不動産業者には依頼しにくい。なぜなら、空き家はそもそも利用価値が少ないからこそ、空き家になっている。利用価値があって、普通の流通市場で売却や賃貸が可能なのであれば、不動産会社に依頼することができるからだ。しかし、一般的には利用価値が低い空き家は不動産仲介会社からすると、仮に成約できたとしても価格が安いため仲介手数料も少ないので採算が取りにくい。手間(物件調査)や現地までの時間が普通の物件よりもかかることが多く、赤字にさえなりかねない。
一方、自治体側からすると、低額な空き家を上手く活用して外部からの移住者を呼び込む手段にしたいという狙いがある。移住希望者に空き家を低価格で提供し、なおかつ子どもの教育資金などを補助することで人口を増やす政策を実施している自治体は多い。一般市場では魅力のない空き家でも、移住希望者から見れば願ってもない物件になることは十分に考えられる。そこで空き家所有者と利用希望者を直接マッチングさせる「空き家バンク」が全国に誕生し始めたものと思われる。


現在、全国で600を超える自治体(市町村)が空き家バンクを運営している。ただ、順調に登録物件を増やし、一定の成約数を確保できているサイトは極めて少ないといわれている。その要因は、やはり所有者と利用者の間に立つ不動産仲介会社(または業界団体)の協力が得られにくいこと、自治体職員が不動産に精通していないため、業界団体側との連携をうまく進められていないことなどがあるようだ。また、宅地建物取引業者の物件調査費を自治体側が一部負担するか、しないかの協議がうまくいかないケースもある。しかし、ここにきて、行き詰まりかけていた「空き家バンク」に新たな風が吹き始めている。それが「全国版空き家・空き地バンク」の登場である。



ページトップ