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VOL.32「3世代の同居・近居」3世代の結束力を強くして、世代間の助け合いを 執筆:住宅新報特別編集委員/本多信博

2016年06月15日

安倍首相は昨年、アベノミクス新3本の矢、(1)GDP600兆円(2)子育て支援(3)介護離職ゼロを打ち出した。注目すべきは、子育て支援の一環として国土交通省に直接指示したと言われている「3世代同居の推進」だ。従来、政府はこのような個人のライフスタイルに関わることを政策目標にすることはなかった。しかし、日本の少子高齢化問題は、もはやそのようなことを言っておられないほど深刻で危機的な状況にある。もし、出生率(2015年の合計特殊出生率は1.46)が上昇しなければ日本の人口は2090年には5,700万人まで減少し、高齢化率は2060年頃には4割強となり、以後は半永久的に横ばいで推移することになる。

家族形態別にみた65歳以上の者の構成割合の年次推移(「平成 25年国民生活基礎調査」厚生労働省)

家族形態別にみた65歳以上の者の構成割合の年次推移(「平成 25年国民生活基礎調査」厚生労働省)

家族の結束力を強化

将来の〝介護破たん〟リスクに備える

政府は2025年までに出生率を1.8に、さらに2035年までに2.1に引き上げることでなんとか将来の日本の人口を9,000万人台半ばで安定させようとしている。
「3世代の同居推進」を打ち出した背景には、この出生率引き上げにつながるであろうということと、将来親が要介護になったとき家庭内での介護力を強化したいという狙いがあるためとみられる。現に、今のペースで少子高齢化が進めば、2050年頃には1人の現役世代(20~64歳)が1人の高齢者(65歳以上)を支える人口構成になる。年金にしても介護保険にしても、社会保障制度としてそのような構図が成り立たないことは明白である。
つまり、日本はこれからの20~30年の間に、長期に続く人口減少と超高齢社会に対応した新たな社会システムや社会構造を構築していかなければならない。家族の結束力を取り戻す「3世代同居」の推進もその一環ということになる。


肉体的・精神的負担を軽減

これまで採られてきた子育て支援政策の柱といえば、保育所の整備である。共働きが常態化したいま、働きながらでも子育てができる態勢整備は不可欠である。しかし、いまだに〝待機児童問題〟は解消されていない。主な要因は保育士不足だ。政府は5月18日に まとめた「骨太の方針」に、2017年度末までに待機児童ゼロを目指し、保育士の給与引き上げなどを盛り込んだ。しかし、保育所の整備だけで、出生率を上げるには限界がある。いっそのこと、「保育園」を義務教育化すべきとの主張もある。社会システムの思い切った改革とはそういうことであろう。
3世代の同居・近居の促進も、社会システム改革の一環である。戦後の核家族化の進展で、今は親子同居世帯が減少し続けている(図参照)。そのため、子育てに慣れていない若い母親が1人で育児に向き合う時間が長いと、肉体的疲労だけでなく、精神的負担も大きい。その意味でも若い母親の育児を手伝える祖父・祖母がいる3世代同居は必要な社会機能と言えるだろう。また、3世代同居には子育て世帯の家計負担を軽減する効果も期待できる。少子化の大きな背景に子供の教育費など経済的不安があることは確かだからである。




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