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VOL.62

TCFDとTNFD

気候変動対策と自然回復を促す情報開示を求める国際組織

執筆日刊工業新聞社編集委員 松木 喬

2024

2.21

企業には、環境問題に関連した情報開示が求められている。特に「気候変動」と「自然」に関連した開示要請が強まっている。気候変動については「TCFD」、自然については「TNFD」という国際組織が開示項目を整理した。

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出典:TCFDとTNFDの違い(筆者作成)

経営や金融への影響が重大なことからTCFDとTNFDが設立された

環境の「異変」が経営にダメージを与えるようになった。中でも自然災害の影響を実感している人が多いと思う。豪雨による洪水が頻発しており、企業もオフィスや工場、店舗が被害を受けている。損害を保険でカバーできたとしても、毎年のように水害に遭うと、支払う保険料が跳ね上がり、経営を圧迫する。

今後の自然の減少や劣化も、経営に打撃を与える。森林が減ると、建材メーカーや住宅メーカーは十分な量の木材を確保できなかったり、材料価格が高騰したりして経営が悪化する。

金融機関にとっても、環境の異変はリスクとなる。材料不足によって企業の業績が悪くなると、銀行は貸した資金を回収できなくなり、投資家は配当を得られなくなる。自然災害で被災する企業が増えると、保険会社は保険金の支払いが増えて経営が圧迫される。世界の政財界のリーダーや科学者は、環境問題が経済危機を招くと懸念するようになった。

このように環境問題が経営に直結するようになり、TCFDとTNFDができた。どちらも、企業に対策を促そうと情報開示を求めている。

TCFDは気候変動によるリスクの分析や対策などの情報開示を求める

TCFDはTask Force on Climate-related Financial Disclosuresの略称。日本語訳は「気候関連財務情報開示タスクフォース」。主要国の財務当局が参加する金融安定理事会が2015年に発足させた作業部会だ。TNFDはTaskforce on Nature-related Financial Disclosures、日本語訳は「自然関連財務情報開示タスクフォース」。2021年に国連環境計画・金融イニシアティブなどが立ち上げた。

TCFDは2017年、提言を発表した。提言と呼んでいるが、開示項目を示しており「開示基準」とも言える。ちなみに提言は「勧告」と表記されることも多い。その提言(開示基準)は、経営者の役割を明らかにする「ガバナンス」、財務への影響と対策を開示する「戦略」と「リスクと影響の管理」、対策の進捗を伝える「指標と目標」で構成される。主に異常気象による被害を「物理リスク」、規制強化への対応で増える費用を「移行リスク」と呼び、将来を想定した開示を要請している。

例えば、不動産事業者にとっては猛暑が物理リスクとなる。真夏日が増えると、所有する建物の冷房の電気代が増えるためだ。また、強まる建築物の省エネ規制は移行リスクとなる。太陽光パネルの搭載や断熱改修によって費用負担が増すためだ。一方、規制に対応してエネルギー消費を実質ゼロにする「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」にすると、電気代を節約できて物理リスクを緩和できる。さらに環境面が評価され、入居者が殺到して賃料がアップする可能性がある。

このようにリスクを分析すると必要な対策が分かり、経営への影響を和らげ、ビジネスチャンスを獲得できる。企業は情報開示によって、気候変動の脅威にさらされても成長できる企業であることを社会に示せる。

TNFDの自然環境に関する情報開示も進むと、街づくりに好影響

一方、TNFDは2023年9月、開示の「フレームワーク(枠組み)」を発表した。TCFDと同様、リスクを検討し、対策を伝える構造になっている。

例えば、地方の緑地が失われると、自然を目当てとした観光客が減って旅行業の経営リスクになる。緑地を守ると周辺の施設にも宿泊や買い物による収入がもたらされ、地価向上などで不動産の価値が保たれる。

また、天然の森を強引に伐採し続けると、森がなくなって建材メーカーは商品を供給できなくなるリスクがある。さらに「森を破壊した」「生物の生息地を奪った」というレッテルを貼られ、企業イメージが傷つくリスクもある。そこで、放置されて木々が伸び放題の森から樹木を伐採して建材に使うと、森の手入れになる。建材メーカーは材料を安定調達できるだけでなく、荒れた山を再生した企業として評価される。

TCFDの提言とTNFDの枠組みに従った情報開示が進むと、社外からの評価が企業のモチベーションとなり、街づくりへの好影響も期待できる。気候変動対策が加速されるため、環境配慮型の建築物が増えて温室効果ガスの排出が減る。災害に強い地域づくりも進む。

また、自然への意識も高まる。すでに東京都内でも、広い緑地を備えた施設が増えている。緑の癒やしを求めた訪問者の増加は、入居する店舗の売り上げに貢献する。植物は涼しさをもたらすので、夏の暑さの緩和が期待できる。緑地は雨水を吸収するので、集中豪雨による都市型洪水を防ぐ。自然を回復させる「ネイチャーポジティブ」が環境対策の新たなキーワードにもなっており、自然を生かした地域づくりはTNFDの枠組みで企業評価の大きなポイントになるだろう。

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