トップ>話題の不動産キーワード>VOL.58 相続登記の申請義務化:所有者不明土地対策の一環として、相続登記の申請を義務化
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2022年7月20日
管理不全の空き家は近隣に迷惑をかける可能性が高い(執筆者撮影)
今回の法改正で相続登記の申請が義務化され、それを怠った場合にはペナルティとして過料10万円以下が規定された。問題はこれが所有者不明土地対策として、どの程度の効果を発揮するかである。当然、一定の効果が期待されることは確かだが、相続した土地の評価にもよるが10万円以下の過料であれば、登記にかかる費用と手間の方が高くつくケースが多いのではないか。例えば、法定相続分での登記申請には、相続人全員の合意と全員の戸籍謄本・住民票などが必要となる。相続人の数が多くなるほど、その手間もコストもかかる。司法書士に委託すれば、その費用だけで数万円~10万円前後が必要になる。
また、所有者不明土地の大きな発生原因として相続未登記問題があるとしても、一般の売買による所有権移転登記が義務化されない以上、所有者不明土地問題の根本的解決には至らないのではないかという説もある。
一方、相続時に登記がなされないケースがある背景には、そもそも価値が極端に低く〝負の財産〟となってしまっている土地の増大がある。そうした土地は相続せず手放したいと考える人も、今後は増えてくるだろう。相続登記を国民に義務付けるのであれば、不要と判断した土地は国が引き取る制度もなければ不公平だし、所有者不明土地問題の解決には至らないという説も有力である。
そこで2021年4月に制定されたのが「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国家帰属法)で2023年4月27日から施行される。しかし、この法律の条文を読むと、国家に帰属させるためには様々なかつ厳格な要件が課されていて、実際に国に帰属させるのは〝至難の業〟という印象を受ける(最終的に承認を受けた場合でも、10年分の土地管理費用相当額の納入が必要など)。所有者不明土地をなくすためには、誰も欲しがらない土地は最終的には国家に帰属させるしかないと思うが、その道のりはまだ遠い。
相続人の負担を軽くするために新たに設けられた「相続人申告登記制度」への評価は高い。相続人が複数いる場合で、なかなか遺産分割協議がまとまらずに3年以内の相続登記ができない場合の救済措置となるからだ。
具体的には、相続により所有権を取得した者が相続開始から3年以内に、登記官に対して、相続が発生した旨、および自分が相続人であることをとりあえず申し出ておけば、相続登記申請義務違反の過料を免れることができる。当然、この相続人申告(報告)は相続登記申請義務を負う相続人全員がそれぞれ行うことになる。
また、これは所有権の移転登記ではないので、相続人の範囲を明らかにする必要もなく、そのため申告にあたっては申告者自身の戸籍謄本を提出するだけで足りる。ただし、その後の遺産分割によって所有権を取得したときは、その遺産分割の日から3年以内に所有権の移転登記を申請しなければならない。もっとも、その場合は相続人のうち誰かが遺産分割内容に従った登記を行えば、他の相続人が登記申請義務を負うことはない。
今回の相続登記の申請義務は、過去に発生した相続も対象になる。その場合、相続の事実を今でも知らないケースではそれを知った日から、既に知っている場合は法施行日の2024年4月1日から3年以内に申請をしなければならない。ただ、その効果は一段と危ぶまれる。これから起こる相続に比べ時が経っている分、相続人の探索にかかる費用と手間が多くなっているからである。
現在、国土の20%もあるといわれている所有者不明土地の多くが、既に何代にもわたって未登記状態が続いている農地や山林である。極端なケースでは明治時代にまでさかのぼって、何百人もの相続人を調べ現在の相続人を特定しなければならない。今回の法律は、そうした多くの労苦を伴うケースは過料の制裁はしないとしている。それが現実的措置であり、事実上、現に発生してしまっている過去の相続分については、国による時効取得など他の手段で所有者不明状態を解消していくしかないであろう。
さらに厄介なことは、今後発生する相続を義務化対象にしても、そもそも相続人がいないケースが考えられる。なぜなら、生涯独身者が増えているからである。一人っ子同士が結婚した場合も、子どもが生まれなければ相続人はいずれいなくなるだろう。このように考えていくと、所有者不明土地問題の根は深い。
所有者不明土地の全面的解決は不可能に近いが、少なくとも国土を管理・保全する最終責任は国にあるという原則から逃れることはできない。
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