文字サイズ

トップ > コラム > まちづくりと連携した空き家の予防

コラム Column


まちづくりと連携した空き家の予防 株式会社 Geo Laboratory 代表取締役 上村要司

(2018.10.3)

 相談業務や物件紹介など空き家の解消に向けた行政と不動産業の連携は進みつつありますが、単なる維持管理や売買・賃貸だけでなく、地域の活性化を促すまちづくりの視点から空き家を未然に防ぐ取り組みが始まっています。

まちづくりに向けた公民・民民連携

 不動産業界では採算性や権利関係の問題といった空き家ビジネスの課題を乗り越え、買取再販や賃貸化などの再生事業を通して、空き家予備軍の物件を再生し地域の付加価値を高める動きがみられます。千葉県松戸市のMADcityや長野市のマイルーム、京都市の八清、大阪市の丸順不動産などでは、まちづくりの視点から地域の特徴を捉え、空き家化する前に物件の活用方法を見出す新たな試みが行われています。

 空き家の予防では、様々な民間企業や住民が主導する公民連携や民民連携の事業がみられます。千葉県流山市では、不動産業者や建設業者、設計業者による住み替え支援組織の登録制度を立ち上げ、空き家を予防する体制づくりを進めています。この組織では、住宅情報の提供やリフォーム提案のほか売買かし保険や建物診断、リフォーム工事をサポート。利用者は組織の事業者を通じて各種相談から物件調査、入居斡旋までワンストップで支援を受けられます。

■流山市の住み替え支援制度 出所:流山市・ホームページ

地方では空き家予防に向けた事前登録制度も

 典型的な中山間地域でも空き家の予防対策は始まっています。IT企業のサテライトオフィス誘致で知られる徳島県神山町では、若年層の流入が続き移住希望者に紹介可能な物件が不足しています。そこで町では、高齢者が居住する古民家などを事前に登録する仕組み「お家長生きプロジェクト」を創設。本人や親族間の相談を踏まえプロジェクトに登録後、目印の札「お家長生き宣言」を玄関先に掲げる制度で、事前に意思表示を行う臓器提供ドナー登録の住宅版と言えるものです。

 対象住宅が空き家になると、町の移住交流支援センターが入居者の斡旋を支援しますが、所有する高齢者も将来の賃貸や売買に備えて維持管理を行う動機付けになっているようです。町内では子や孫世代と同居しない高齢夫婦や一人暮らしが増えていますが、誰かに引き継ぐという思いが適正な管理を促し、若年層の入居によってまちの活性化に役立つことが期待されています。

■徳島県神山町のお家長生きプロジェクト 出所:とくしま移住交流促進センター・ホームページ

レトロな長屋を耐震リノベーションで再生

 空き家予備軍の物件を再生し、地域のまちづくりを目指す不動産業と他業種の連携もみられます。古くからものづくりの街で高齢化が進む大阪市大正区には、築65年の長屋をリノベーションし、クリエイターが暮らすシェアアトリエがあります。ヨリドコ大正メイキンと名付けられたこの物件では、単なる老朽物件の再生ではなく、ものづくりという地域の特徴を活かし、店舗と住居を併設した「作る・売る・住む」を1つにした機能が備わっています。

 1階は5戸あった住戸の仕切りを取り払い、耐震壁を新設した上で開放的で機能的な工房・店舗を設置し、クリエイター同士が情報共有できる協業関係の創造を狙っています。2階の住居5部屋は、大正区長が審査員長を務めるコンテストに基づきDIYチームがデザインした内装を施し、入居クリエイターの創造力を刺激する個別仕様になっています。

■ヨリドコ大正メイキンの概要 出所:ヨリドコ 大正メイキン・ホームページ

 このプロジェクトでは、地元不動産業者だけでなく空間プロデューサーや地元工務店、リノベーションにあたって既存材を活かしたDIYボランティアなどが重要な役割を果たし、行政と連携しながらまちづくりの視点で物件再生を図る点が大きな特徴となっています。除却を選択しなかったオーナーの意向も強く働いており、資金の一部はクラウドファンディングで調達されています。

 このように、老朽化した物件の価値を認め地域の中でその役割を読み解く再生事業は、空き家を防ぐ手立てとして示唆に富むものと言えます。このほかにも、全国では地域住民が主体となった事業や民間企業とパートナーシップを組み地域の再生を図る事業などがみられます。まちづくりと連携した空き家防止の取り組みは、今後ますます注目を集めそうです。

ページトップに戻る