トップ>国土交通省・最新の動き>VOL.87 2016年の不動産業行政について
2016年2月10日
今回は、昨年の不動産市場の状況を振り返るとともに、本年重点的に取り組むべき不動産業政策についてご紹介します。
2015年の住宅・不動産市場は、低金利等の施策による住宅需要の下支えや不動産投資意欲の高まり、株価上昇による資産効果や全国的な景況感の改善を背景に、堅調に推移しました。
地価については、全国平均では依然として下落しているものの、下落率の縮小傾向が継続しています。特に三大都市圏の平均では、商業地について上昇基調が強まり、住宅地についても小幅な上昇を継続しています。
不動産投資市場に目を向けますと、J-REITについては、昨年新たに5銘柄が東京証券取引所に上場、昨年10月末時点で51銘柄、時価総額は約10.4兆円となり、銘柄数・時価総額はともに増加傾向にあります。東証REIT指数は、2012年11月末においては約1,000ポイントでしたが、昨年10月末時点においては約1,730ポイントと約73%の上昇であり、マーケット状況は拡大傾向にあります。
また、住宅着工戸数については昨年1月から9月までの合計が67.7万戸と、前年同期比で2.8%の増加となっています。
我が国には官民あわせて約2,430兆円の不動産資産があります。今後、我が国は、人口・世帯数の減少や高齢化の急速な進展といった社会経済の大きな変化を迎えることになりますが、このような不動産資産を有効に活用し、ストック活用型の経済成長を実現することが重要です。
中でも、800万戸以上の空き家を抱える住宅市場について、中古住宅流通の活性化を図り、高齢者等の持ち家資産の資金化・資産価値増大を進めることは、高齢者のみならず、所得が伸び悩む若年層も含めた住み替えを促進し、ライフステージに応じたより豊かな住生活の実現につながると考えられます。また、「日本再興戦略」や「経済財政運営と改革の基本方針2015」(いずれも平成27年6月30日閣議決定)においても中古住宅流通市場の活性化が掲げられており、これを受けて制度改正も視野に各種取り組みを進めているところです。
まず、木造戸建て住宅であれば築後20年程度で建物の価値がゼロと評価されてしまう慣行を改めるべく、2014年3月に「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善に向けた指針」を公表いたしました。この新たな指針の考え方を市場に普及・定着させるため、昨年7月、(公財)不動産流通推進センターにおいて、Web上で改訂版価格査定マニュアルの提供を開始しました。また、不動産鑑定評価についても、昨年7月に建物の現況を適切に反映した中古住宅等の評価方法の確立に向けて、「既存住宅の評価に関する留意点」を策定しました。今後は、個別の住宅の性能やリフォームの状況等を適切に反映した評価がなされることが期待されます。(※1)
※1 関連情報についてはVol.83をご参照ください。
次に、円滑な不動産取引に必要となる情報を集約・提供するシステムの整備です。物件の購入を検討する消費者に対し、必要な情報を適時適切に提供できるよう、過去の取引価格や周辺の取引事例、災害リスク・法令制限に関する情報等、様々な機関や媒体に分散している情報を効率的に集約・提供する情報システム(名称:不動産総合データベース)の整備に向けた検討を進めているところです。2015年6月より横浜市の物件を対象に試行運用を開始し、システム導入による効果・課題の検証を実施しており、2016年度には、試行運用の結果を踏まえ、本格運用に向けた検討を行う予定です。(※2)
※2 関連情報についてはVol.79をご参照ください。
また、2012年度から、宅地建物取引業者(以下宅建業者)及び関連事業者が連携して中古住宅を円滑に流通させるための協議会活動を支援し、全国各地でワンストップのサービス提供モデルの構築が進められているところです。2015年度には、これらの取り組みを踏まえて、中古住宅売買に係る媒介時に宅建業者が行う連携業務のあり方について整理するとともに、消費者が安心して中古住宅の取引ができる環境の整備を目指しています。(※3)
※3 関連情報についてはVol.85をご参照ください。
加えて、不動産流通の活性化と消費者利益の保護・増進を図るため、本年1月より宅建業者間の物件探索システムであるレインズにおいてステータス管理制度が導入されました。物件の売却依頼者との間で専属専任媒介契約または専任媒介契約を締結した宅建業者は、レインズに物件の取引状況(ステータス)の登録が義務付けられました。取引状況は、宅建業者はレインズ、売却依頼者は専用ホームページで確認することができるようになりました。これにより、媒介を依頼した売主がより安心して不動産取引を行うことができる環境を整備し、取引の透明性の向上を図るとともに、レインズを通じた取引の相手方の探索の適正化、円滑化が図られることが期待されます。(※4)
また、瑕疵(かし)保険基準への適合や建物検査報告書の有無など、レインズに中古住宅の質に関連する登録項目を追加しました。これにより、購入希望者の条件にあった物件の探索が可能になり、中古住宅流通市場の活性化に寄与することが期待されます。
※4 関連情報についてはVol.86をご参照ください。
我が国の不動産投資市場は、リーマン・ショックの影響を乗り越えて拡大を続け、不動産ストックの再生、良質な不動産ストックの供給を通じて日本経済の発展に貢献しています。 国土交通省ではこれまでにも、リート等が取得する一定の不動産に係る不動産流通税の特例措置等を通じて不動産投資を促進してきましたが、我が国のさらなる成長のためには、投資対象不動産の多様化、不動産証券化スキームのさらなる活用など、不動産投資市場の環境を整備することが必要であると考えております。
このような観点から、国土交通省では昨年11月に「不動産投資市場政策懇談会」を設置し、今後の不動産投資市場の持続的な成長に向け、当面講ずべき措置やオリンピック後まで見据えた中長期的な取り組みなど、今後の不動産投資市場の成長戦略について幅広く検討を行っています。
投資対象不動産についてみると、これまでのリートの取得資産はオフィスや住宅が中心であったところ、近年は観光需要の増加や物流の高度化を背景として、ホテルや物流施設への投資が進んでいます。また、少子高齢化を背景とした高齢者向け住宅等の供給ニーズを受け、ヘルスケア施設に特化したヘルスケアリートの設立も進んでおり、現在3社のヘルスケアリートが運用を開始しております。このような流れの中、リートが病院不動産を取得する際の環境整備を行うため、昨年6月に病院不動産を対象とするリートに係るガイドラインを公表いたしました。
また、地方経済の活性化のためには、地方における不動産市場の活性化も必要です。このため、不動産証券化手法等による公的不動産(PRE)活用のための手引書の作成や、地方都市における不動産証券化プロジェクトに対する専門家派遣等を通じて、地方における不動産証券化手法の普及も進めています。
不動産投資の促進のため、不動産市場の透明性の向上のための取り組みも進めています。不動産の取引価格の動向を示す不動産価格指数について、住宅不動産について昨年3月に本格運用を開始し、商業用不動産についても、国際指針の作成状況を踏まえつつ、試験運用の開始に向けた準備を進めております。
このような取り組みを通じ、不動産投資市場のさらなる活性化を図り、国民生活の向上と経済成長の実現に貢献していく考えです。
国内の区分所有マンションの戸数が600万戸を超え、我が国の重要な社会的資産となっている中で、マンションの適正な維持管理は一層重要な課題となっています。特に、築30年以上のマンションは150万戸を数え、経年劣化が進むとともに、居住者の高齢化等から管理組合が十分に機能しないマンションも相当数存在し、管理上の大きな課題となっています。区分所有マンションの約9割は、マンション管理業者によって管理されており、マンションの適切な維持管理や価値の維持保全を行う上でマンション管理業者が果たすべき役割は非常に重要です。
また、中古住宅市場の活性化のためには、消費者の中古住宅の取引に対する不安を取り除く観点から、物件に関する情報が適切に提供されることが重要です。特に、マンションでは、その特性から、修繕履歴等の情報を含めた建物の管理に関する情報に加え、マンションの内部のルール等の管理情報が的確に購入予定者に開示・提供されることが重要です。
国土交通省としては、このようなマンション管理情報が持つ役割・効果を踏まえ、管理情報がそれぞれのマンションにおいて、主体的に提供されるよう、必要な環境を整えていくための施策を進めてまいります。
賃貸住宅の適切な管理・運営も大きな課題です。民間賃貸住宅は住宅ストックの4分の1以上を占め、さらに約8割のオーナーが賃貸住宅管理業者に管理業務を委託するなど、賃貸住宅管理業の社会的責務は大変大きいものと認識しております。
国土交通省では、賃貸住宅管理業の適正化を図り、借主等の利益の保護に資するため、国土交通省告示による賃貸住宅管理業者登録制度を2011年12月から施行しております。
本制度においては、管理事務の対象や契約内容等に関する重要事項説明、契約書面の交付、受領した家賃等の分別管理、貸主に対する管理事務の定期報告など、管理業務におけるルールを設けており、登録を受けた管理業者はこのルールを遵守しなければなりません。また、登録業者名を一般に公開することにより、借主等は、優良な管理業者及び良質な管理物件を選択するために、本制度を活用することが期待され、また、本制度によるルールが管理業務のスタンダードとして広く普及することで、賃貸住宅に係るトラブルの抑制につながるものと考えております。
本制度の施行から約4年が経過し、登録業者数は約3,700業者にのぼる一方、未登録業者も多数存在しており、また、2016年中には制度の施行から丸5年を迎え、多くの登録業者が更新時期を迎える状況にあります。
このため、制度のさらなる普及促進を図るべく、制度をめぐる課題を整理し、必要な改善策を取りまとめるとともに、今後の制度のあり方等についても検討し、必要な論点整理を行うことを目的として、昨年10月から「賃貸住宅管理業者登録制度に係る検討委員会」による検討を行っているところです。
今年度の本検討委員会での検討結果を受け、早急に対応すべきものについては、来年度早々にも制度の見直し等を行うなど、賃貸住宅管理業の適正化に向けた取り組みを推進してまいります。
2013年4月に改正された犯罪収益移転防止法では、より詳細な取引時確認の実施等、マネー・ローンダリング防止のための対策が新たに講じられました。これを受けて、国土交通省では、関係団体と連携し、改正法に関する概要や法施行に係る実務的なQ&A等の公表等、円滑な運用に向けた取り組みを行ってきました。
しかしながら、資金洗浄およびテロ資金対策に関する国際的な基準を策定している金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)からは、各国が遵守すべき国際基準に照らして、顧客管理等に関する勧告について、我が国の対応が未だ不十分と指摘されており、それらについては、明示的に対応策を法令で規定することが求められていることから、2014年11月にこれらの指摘をクリアすべく、さらなる法改正が行われ、2015年9月には下位法令の改正作業も行われたところです。
これに伴い、今後、特定事業者には顧客管理措置等の強化が求められるところですが、国土交通省といたしましては、これらの状況を踏まえ、改正内容の周知を行うとともに、引き続き警察庁をはじめとする関係機関と連携し適切な対応措置の検討を進め、宅地建物取引業におけるマネー・ローンダリング防止に関する取り組みを図ってまいります。
また、暴力団等の反社会的勢力の社会からの排除については、政府全体で取り組んでいるところであり、2015年4月1日施行の改正宅地建物取引業法においても、宅地建物取引業の免許及び宅地建物取引士の登録にあたっての欠格要件として、暴力団員等であることを追加しております。不動産業界では、2011年に契約書に盛り込む暴力団排除規定について、各団体においてモデル条項を導入し、現在、その運用は業界全体に浸透してきております。また、不動産業・警察暴力団等排除中央連絡会における「不動産取引における暴力団等反社会的勢力排除の5原則」の採択により、不動産業界として対外的に反社会的勢力排除の姿勢を示すなどの取り組みも着実に進めていただいております。
国土交通省では、こうした取り組みのさらなる進展に向け、引き続き、不動産取引からの反社会的勢力の排除を含めた業界のコンプライアンス体制確立に向けた活動に対する支援を行ってまいります。
障害者権利条約の批准に向けた国内関係法令の整備の一環として、2013年6月に成立した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障害者差別解消法)が、本年4月1日から施行されます。同法では、障害を理由とする差別を解消するための措置として、民間事業者に対して「差別的取扱いの禁止(法的義務)」及び「合理的配慮の提供(努力義務)」を課しており、その具体的な対応として、主務大臣は事業者向け対応指針を作成することとされていることから、昨年11月に「国土交通省所管事業における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」を作成・公表いたしました。
本対応指針においては、主な事業に関する障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例を示しており、宅地建物取引業を対象とした不動産業関係の具体例も盛り込まれたところです。法の目的を踏まえた適切な対応が行われるよう、引き続き、普及・啓発の取り組みを進めてまいります。
以上、本年重点的に取り組むべき課題についてご紹介いたしました。これらの取り組みを進めるにあたっては、関係部局や関係団体とよく連携をとってまいりたいと考えております。
※執筆の内容は、2016年1月末時点によるものです。