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「個人住宅の賃貸流通の促進に関する調査報告(平成27年3月)」について DIY型賃貸借契約の活用に向け、改修等に係る資金調達方法や実務上の留意点を整理

2015年5月13日

Report
国土交通省 土地・建設産業局 不動産業課
 

我が国においては、良質な住宅ストックを適切に管理し、長く大切に利用する社会を実現することが、住宅政策の重要な課題となっています。
この課題に対する取り組みの1つとして、平成25年度に、賃貸用物件と比べ取引ルール等の整備が進んでいない「個人の所有する住宅」について、賃貸住宅としての流通を促進することを目的として、「個人住宅の賃貸流通を促進するための指針(ガイドライン)」(※1)をとりまとめ、貸主が修繕を行わず借主が自費で修繕やDIY(※2)を行う借主負担型の賃貸借契約に係る指針を整備したところです。

個人住宅を良好な状態で賃貸するためには一定規模の改修(※3)が必要となることも多いのですが、個人家主にとってはその改修費用を独自に負担することは困難であり、空き家の有効活用を阻害する要因の一つとなっています。 この課題を解消するためには、貸主が利用しやすい金融商品の提供や借主が貸主の費用を負担する、又は借主がDIYにより改修を実施するといったことなどが考えられる一方、そのような手法には費用回収の実施方法や原状回復のあり方、借主が費用負担した場合の精算方法の考え方など、解決すべき課題があります。
このため、平成26年度においては、改修費用の調達方策・分担方法、賃貸借契約における改修部分の取扱方法等の課題や解決策を、実際の事業を調査対象としてとりまとめるとともに、空き家所有者等の意向調査を実施し、個人住宅の賃貸流通の促進に向け、DIY型賃貸借(※4)を活用するにあたり、資金調達の方法や協議・合意すべき内容についての考え方を整理し、報告書にとりまとめました。

今回はこの報告書の概要について、紹介します。

※1
詳細はvol.67「『個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会』の最終報告について 」参照
※2
DIYはdo it yourselfの略語で、一般的には、専門業者に頼らず自らの手で補修や組み立て、日曜大工等を行うこととされていますが、報告書では業者に発注して好みの設備更新や模様替えを実施することも含めています。
※3
報告書では借主の意向の有無に関わらず、建物のリフォームや修繕、設備の更新、造作の取付等賃貸物件に何らかの手を加えることを広く含めて「改修」としています。
※4
報告書ではDIY費用負担者が誰かに関わらず、借主(入居者)の意向を反映して住宅の改修やリフォームを行うことができる賃貸借契約やその物件を指すものとしています。
資金調達や改修実施のためのスキームの整理

改修を実施する際の改修費用の調達方策及び分担方法等について、実際の事業(10事例)を調査しました。これらの事例も含め、資金調達及び改修実施に関する取組方策の考え方を以下の5パターンに整理しました 。

図をクリックすると拡大表示されます
図:資金調達及び改修実施に関する取組方策の考え方

事例の調査を進める中で、地域ごとに様々な資金調達によって借主の改修意向を反映するDIY型の賃貸借の推進が確認され、その中には、不動産事業者が賃貸事業に関与することで、資金調達がスムーズに実施されている事例も見られました。

実務における留意点について

DIY型賃貸借を行う場合、DIYで取り付ける造作等の原状回復や費用負担、造作買取請求権の扱い等に関し、あらかじめ考え方を整理する必要があります。また、実務を推進するうえで契約時の合意と異なる想定外事項の発生についても適切に対応することが必要と考えられます。
このため、実際の事業の調査を通じて、賃貸借契約における改修部分の取り扱い方法等の課題や解決策について、個人住宅の賃貸化を容易に実施できるよう実務に則した協議及び合意に寄与する考え方として、以下のとおり整理しました。

(1)DIY工事前の確認事項について
一つの住宅資産が長く活用され、かつ、退去時にトラブルにならないようにするために、以下に例示するような事項について、あらかじめ契約当事者間で確認しておくことが必要です。
(例)
 工事内容(実施箇所(範囲)・使用する部材/色彩等)
 どのような工法で実施するか
 工事実施者の明記
 工事実施後の施工確認 等

(2)DIY実施部分の所有権について
所有権の帰属(どちらに所有権があるのか)は当事者間の合意が優先されるため、トラブル回避の観点から、借主が設置した物の所有権が貸主と借主のどちらに帰属するのかということや、借主に所有権が帰属すると合意した場合の退去時の取り扱い(原状回復義務等)について、明確に定めることが望ましいと考えられます。

(3)DIY実施部分の原状回復義務について
借主負担によるDIY実施部分に係る原状回復義務の取り扱いについて、当事者間で協議・合意のうえ、契約することが望ましいと考えられます。
<A.借主の原状回復義務を免除する場合>
 貸主は借主負担によるDIY実施部分について、借主に元に戻すように要求できないことを念頭に協議・合意のうえ、契約することがトラブル回避の観点から有効と考えられます。
<B.借主は原状回復義務を負うこととするが、退去時に貸主が認めた場合には免除とする場合>
 借主が原状回復義務を負う「原状」の内容について、当事者間で明確にしておくことがトラブル回避の観点から有効と考えられます。(例:「原状」をDIY工事実施後の状態とし、経年劣化や通常の使用による損耗以外の損耗・毀損のみを原状回復義務の対象とする等)

(4)DIY実施部分の費用償還請求権・造作買取請求権について
借主負担によるDIY実施部分に係る費用償還請求権や造作買取請求権(以下「費用償還請求権等」)の取り扱いについて、当事者間で協議・合意のうえ、契約することが望ましいと考えられます。
<A.借主が費用償還請求権等を放棄する場合>
 借主は借主負担によるDIY実施部分について、退去時に貸主に対して改修に係る費用の償還を請求できないことを念頭に協議・合意のうえ、契約することがトラブル回避の観点から有効と考えられます。
また、中途解約等の想定外事項もあり得るため、貸主は、借主に対して改修に係る費用は精算されないことについて、十分に説明し、合意を形成することがトラブル回避の観点から有効と考えられます。
<B.借主が費用償還請求権等を放棄せず、退去時に費用の精算等をする場合>
 契約時に、貸主が借主に対して設置物に大きな損壊などがない前提で、残存価値の精算をすることを協議・合意し、グラフ等を活用し、いつ退去すると残存価値がどのくらいあるのか等の精算事項について合意の上、契約することがトラブル回避の観点から有効と考えられます。

この他、所有者以外(「一般借主」や「サブリース事業者」)がDIY工事費用を負担し、工事発注(実施)主体となる場合には、DIY工事費用にかかる税務会計処理について、所有権の帰属先や賃料の支払い方法に応じて確認することが重要である旨が報告書において示されています。

DIY型賃貸借契約の場合、通常の賃貸借契約と異なり、貸主も借主もDIY型賃貸借事業に共同で参画するという精神を共有し、契約時に当事者(特に借主)がリスクを認識できるよう、貸主または関与する事業者による適切な情報提供と説明実施が必要です。関係当事者間での十分な理解による合意が将来のトラブルの可能性を低減させることにつながるものと考えられます。
また、DIY型賃貸借契約により物件を賃貸する場合においては、空き家を有効活用して移住や住み替えを促進する場合や賃貸物件の稼働率向上に寄与する場合など、取り組む地域や物件種別により具体の課題が異なることが想定され、法律上若しくは税務会計上の観点からの専門知識も必要と考えられることから、それぞれの案件の状況に応じて、各種専門家を含めた関係団体・事業者が連携して、DIY型賃貸借の実施に係る協議及び合意を図ることが重要です。

国土交通省では、平成27年度以降、本報告書でとりまとめた内容の普及や、DIY型賃貸借の一般的な活用を促進するために考えられる方策について検討していくことを予定しております。

※執筆の内容は、2015年4月末時点によるものです。

国土交通省


詳しくは国土交通省「個人住宅の賃貸流通の促進に関する調査報告について」を参照ください。

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