トップ>国土交通省・最新の動き>VOL.58 「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」について
2013年9月11日
国土交通省では、中古住宅の流通促進・活用のため、中古住宅の適切な評価の普及等に向けた方策の検討を行うことを目的として、有識者による「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会」を設置しました。本研究会では、本年3月以降3回の研究会及び2回の勉強会における検討が行われ、本年6月26日に「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会報告書」が取りまとめられました。
今回は「中古住宅の流通促進・活用に関する研究会報告書」について紹介します。
我が国の中古住宅・リフォーム市場の現状分析や課題については、「中古住宅・リフォームトータルプラン※1」(平成24年3月)や「中古住宅流通市場活性化フォーラム※2」(平成24年6月)等において、既に全体的に整理されてきました。そこで本研究会では、売り主、買い主、流通・リフォーム事業者、不動産鑑定事業者、住宅金融関係者等の流通市場関係者の声を聞き、これら事業者に共通する3つの課題((1)建物評価の課題、(2)流通市場の課題、(3)住宅金融の課題)に絞って検討が進められました。その結果、引き続き、中古住宅評価の適正化、中古住宅の質に対する不安の解消、中古住宅流通上の障害除去、住宅ストックの活用の面で課題が存在することが明らかになりました。
※1 「中古住宅・リフォームトータルプラン」については当サイトVol.43参照
※2 「中古住宅流通市場活性化フォーラム」については当サイトVol.45参照
中古住宅の建物価値やリフォーム履歴が適切に評価され、維持保全等の取り組みにより建物の資産価値が維持・向上していけば、ローンが組みづらい一定年齢以上になっても、自宅の売却やリバースモーゲージ※3を通じて住み替えの資金を得ることができ、新たな持ち家やサービス付き高齢者向け住宅などへ入居できる可能性が広がります。また、今後、団塊ジュニア層が年を取り、住宅の一次取得層(30歳~45歳)の人口が減少した場合にも住み替えの可能性が高まれば、新築・中古を含めた住宅需要が拡大し、新築住宅市場にもプラスの効果が期待されます。
※3「リバースモーゲージ」:高齢者が保有している住宅を担保として生活資金等の融資を受け、当該借入者の死亡時に当該住宅を処分して一括返済するローン。
これらの検討を踏まえ、以下3つの提言がなされました。
【提言(1)】中古住宅の適切な建物評価を目指した評価手法の抜本的改善
戸建住宅の建物評価は原価法という評価手法により行われることが慣行となっていますが、その中で、建物の耐用年数が考慮される際、木造住宅の場合、税法上の耐用年数等を参考に約20~25年とされることが大半です。しかしながら、近年の戸建住宅取引・賃貸市場においては、築30年以上の物件の取扱量が増えてきており、耐用年数を一律20~25年とする考え方は利用実態を反映しているとはいえません。実態とは異なる「木造戸建は約20年で価値ゼロ」という「常識」が中古住宅流通市場でも、担保評価でも「共有」されており、相互に悪循環を招いている状態といえます。
こうした「市場の失敗」を是正するために、原価法を改善し、建物評価の適正化を図ることが必要とされたほか、このような「改善」は実務で用いられるように行うことが重要であるとされました。併せて、リフォームで住宅の質が上がった場合には、金融機関が行う担保評価において、その向上分をしっかり評価するための方法等を整備する取り組みを支援する方策なども必要とされました。
【提言(2)】市場プレイヤーの行動に働きかけ、中古住宅流通市場を改善する方策
不動産に関する情報の充実等により消費者が安心して取引できる環境づくりを行うため、本年6月に策定された「インスペクション・ガイドライン※4」に沿ったインスペクションの普及・促進、売り主による情報提供や住宅履歴情報の充実、瑕疵(かし)保険の充実・合理化を行うほか、リフォームした既存住宅を長期優良住宅等として評価・認定する仕組みを整備し、税金面や融資面で評価されるような制度を検討するなどの方法により耐震性や省エネ性等、住宅に関する情報表示(ラベリング制度)を充実すべきとされました。
さらに、中古住宅の流通時において、宅建業者と関係業者の連携によるワンストップサービス等の取り組み強化や、買取再販(中古住宅を買取、リフォーム等を実施した上で販売する業態)のように的確なリフォームが実施されることを促進する、先進的な取り組みに対して支援を行うことも必要とされました。
※4「インスペクション・ガイドライン」については当サイトVol.57参照
【提言(3)】住宅金融市場へのアプローチ
中古住宅の建物評価を改善する際には、金融機関の担保評価も一緒に改善されることが必要であり、一方で、建物評価が改善すれば、土地だけでなく、戸建住宅の建物部分も担保の対象とできるため、リフォームローンやリバースモーゲージなどの金融商品に大きな影響を与える可能性があります。金融庁において開催された「官民ラウンドテーブル」においては、金融機関の担保評価実務の改善等を通じ、高齢者の住宅資産をより積極的に活用できるようにすること等が提言され、また、一部金融機関では、この「官民ラウンドテーブル」や本研究会での検討に呼応する形で新たなリバースモーゲージ商品の開発を発表しています。このため、今後、住宅金融支援機構、民間金融機関、不動産事業者等の中古住宅流通市場関係者等による「中古住宅市場活性化ラウンドテーブル(仮称)」を設け、建物評価の改善等の中古住宅流通市場活性化に係る政策情報やリフォーム一体型ローン、リバースモーゲージ等の商品充実などについて、情報交換を行うことが提言されました。
以上の提言には、行政だけでなく、市場のプレイヤーがそれぞれの立場で取り組まなければ解決できない課題も多く存在します。行政が中心となって取り組むべき事項を中心に「中古住宅流通に係る課題と今後の行程表」を行動計画として掲げていますが、国土交通省では各プレイヤーそれぞれの立場からの具体的行動を促すべく、引き続き各種施策に積極的に取り組んでいきます
※執筆の内容は、2013年8月末時点によるものです。