9月1日は「防災の日」。地震や水害などの大規模な災害による住宅への被害は、最小限にとどめたいものです。そこで、今回は防災を担当される内閣府のご担当者に、防災への取り組みや防災の観点からの住まい選びなどについてお聞きしました。
内閣府は防災に関する基本的な政策の企画立案や総合調整を担当
――防災に対する消費者の関心が高まっていますが、内閣府では防災に対してどのような業務を担当されているのでしょうか?
内閣府は、平成13年の中央省庁再編により新たに設置されました。その際に、防災に関する行政内部の施策の統一を図るために、特命担当大臣として防災担当大臣が新設されるとともに、政策統括官(防災担当)が防災に関する基本的な政策、大規模災害発生時の対処に関する企画立案、総合調整を担うことになりました。
具体的には、甚大な被害が予想される東海地震、首都直下地震などの大規模地震対策のほか、火山対策や大規模水害対策の検討・推進を行っています。また、実際に災害が発生した場合には、情報対策室を設置して情報収集に当たるとともに、被災地への政府調査団の派遣、災害対策関係省庁連絡会議の開催なども行います。
――9月1日の「防災の日」には、防災訓練などが全国で行われると思いますが、防災の日や防災週間などを通じて、消費者に対してどのような取り組みをされているでしょうか?
災害に対する安全・安心を確保するには、行政による災害対策としての「公助」だけでなく、国民一人ひとりの防災意識の向上、家庭や職場における防災への備えなどの「自助」、「共助」が重要となります。
そのため、防災週間などの機会にフェアなどを開催し、様々な意識啓発活動を行っています。具体的には、被災者の経験談をまとめた「一日前プロジェクト」や防災教育教材「減災のてびき」など、普段から皆さんに心がけてもらいたいことをコンパクトな冊子にまとめて配布しています。
防災の観点から見た街選び、住まい選び
――住みたい街を選ぶ際に参考にしてもらう目的から、当サイトの「住環境を調べる」のコーナーでは、ハザードマップや地震被害予想図など、災害に関する情報を入手できるようにしています。こうした情報をどう活用したらよいでしょうか?
各市町村では、地震ハザードマップなどが作成されており、そのエリアの地震の被害リスクを知ることができます。内容は市町村ごとに異なりますが、そのエリア内の地震による揺れの大きさや、建物倒壊率、火災発生率、避難困難度などの情報を表示しているところもあります。すべての市町村で作成が進んでいるわけではありませんが、ハザードマップが整備されているところでは、街選びの情報として参考になると思います。
ただしハザードマップは、例えば250メートル四方などのメッシュ表示で作成されているのが通常で、1棟1棟の建物について判断したものではありません。エリアとしてとらえるということに注意が必要でしょう。
――防災の観点から、住宅を選ぶ際の注意点などがありましたら、お教えください。
昭和56年に建築基準法が改正されました。それ以降の耐震基準(新耐震基準)では、震度6強や7の大きな揺れでも建物が倒壊しないことが基準とされています。したがって、既存の建物を購入する場合は、竣工時期が一つの参考になると思います。ただし、昭和56年以前の建物がすべて危険というわけではありません。旧基準に対して余裕を持って設計されている場合や、耐震補強をしている場合もあるからです。
そこで、現在の住宅の持ち主や、マンションの管理組合に耐震診断や耐震補強を実施しているか確認するのも有効でしょう。特にマンションでは、管理組合が大規模修繕計画を立てていたり、これまでの修繕の記録を保管している場合が多いので、それらを確認することもできるでしょう。
住宅を新築される場合や購入される場合は、「住宅性能表示制度」の耐震性能に関する評価を確認することも有効です。
――現在お住まいの住宅で、日常できる防災対策などがあれば、お教えください。
阪神・淡路大震災の時には、亡くなった方の約8割が建物の倒壊による圧死が原因でした。その意味でも、耐震診断を行ったり、必要に応じて耐震補強を行うことが重要となります。各自治体で耐震診断の業者を紹介したり、助成制度を設けている場合が多いので、積極的に利用するとよいでしょう。
また、家具の固定も防災対策の一つとして重要です。新潟県中越沖地震では、負傷された方の4割~5割近くが、家具の転倒や落下物が原因で負傷されています。家具の固定や配置に気をつけることで、地震時のリスクを軽減することができます。
国土交通省と連携して、応急住宅対策や住宅の耐震化促進などに力点を
――災害時に応急住宅が不足することに備えて、災害時の民間賃貸住宅「一時提供制度」が広がっていますが、この制度内容についてお教えください。
地震による家屋の倒壊などにより、余震がおさまっても自宅に戻れない人は応急住宅に入居するのが通常です。しかし、中央防災会議「首都直下地震避難対策等専門調査会報告」の推計では、首都直下地震の場合、1都3県で最大約162万戸の応急住宅が必要になるのに対して、応急仮設住宅の供給可能量は約12万戸、応急仮設住宅を建設することが可能なスペースも最大で約20万戸分しかなく、単純に考えても100万戸以上が不足するという切迫した状態が想定されます。そのため、民間賃貸住宅の空き家や空き室の活用が重要になってくるのです。
そこで登場するのが「一時提供制度」です。これは、各都道府県が、宅地建物取引業の業界団体等と協定を結び、震災時に民間賃貸住宅の空き家・空き室を借り上げ、被災者に無償で一時提供する制度です。これにより、迅速に被災者に住宅を提供できるだけでなく、仮設住宅を建設するよりも低コスト、廃材が出ないため環境にも優しい、家族構成に応じた規模の住宅を提供できるなどいろいろなメリットが考えられます。
――そのほかに、国土交通省と連携して、防災面で力を入れて取り組んでいることをお教えください。
国土交通省がかかわる施策は多岐にわたりますが、中でも「住宅の耐震化」は、地震による住宅被害を減少することで、避難者の発生数を抑えられるという利点があります。また、自宅が無事ならば急いで帰ろうとする人も少なくなり、徒歩帰宅者による道路混雑などの軽減にも役立ちます。その意味で、住宅の耐震化は地震対策の基本施策であると同時に、避難者対策、帰宅困難者対策の観点からも非常に重要です。
また、避難者の中には、自宅の安全性を危惧して避難するという人もいます。建物の応急危険度判定(被災建築物の危険性を3段階で表示)を迅速に実施すれば、自宅の早期復帰を促して、避難者の数を軽減することができます。このため、応急危険度判定士の登録者数を増やす取り組みも、国土交通省と連携して取り組んでいます。
※インタビューの内容は、2009年7月時点の取材によるものです。