国土交通省総合政策局不動産業課では、不動産取引に関連してどのような業務を行っているのかを紹介するシリーズの第3回です。今回は主に不動産流通業界のインフラの整備について、ご担当者にお聞きしました。
消費者が不動産取引を円滑に進められるための環境整備を
――前回は不動産業課の役割の中でも、不動産取引の円滑化や適正化のための法規関係の業務についてお聞きしました。今回は、不動産業課の第3の側面となる「流通インフラの整備」に関する取り組みについて教えてください。
不動産流通市場の動向について、統計的な現状把握はもちろんのこと、実際の取引における現状の課題や問題点を把握しています。それらを踏まえて、不動産流通市場が健全に発展していくための企画立案をしていくのが、主な業務内容です。
適正で健全な不動産流通市場の発展を考える際に、例えば、売り手である事業者だけを監督指導するのみならず、買い手である消費者に対しても、不動産取引に関する正しい情報を取得し、理解し、取引に生かしていくことを促すことも必要になります。
特に不動産の売買については、消費者が経験できるのは一生で1、2回程度でしょう。不動産という個別性が非常に強いものについて、消費者が自分のニーズに合うものを選び、適切に取引を進めるためには、どういった仕組みが必要かということを常に考えていく必要があります。
――消費者が不動産取引に関する適切な知識を習得するために、最近取り組まれた業務として、具体的にどういったものが挙げられますか?
2年ほど前から、事業者については「人材育成」、消費者については「情報提供のあり方」という観点から、検討委員会等を重ねて具体策を検討してきました。消費者への情報提供の具体策の一つとして、4月にリニューアルされた不動産ジャパン(本サイト)が挙げられます。本サイトにおいては、不動産関連の基礎知識を充実させること、不動産流通4団体の物件情報を充実させることなどの基本コンセプトに、情報提供の考え方が生かされています。
ただし、不動産ジャパンの物件情報は、不動産の売り出し価格であって、実際に成約した価格ではありません。成約価格の情報は、個人情報等の観点から取り扱いに十分留意しなければなりませんが、何らかの工夫をすることで成約価格情報を提供できないかという問題意識から誕生したのが、RMI(レインズ・マーケット・インフォメーション)です。
RMI(レインズ・マーケット・インフォメーション)により成約価格情報を公開
――事業者間のネットワークシステムであるREINS(レインズ)では、成約情報の収集もされていますが、消費者が利用するための独自の情報提供システムを作ったということでしょうか?
そうです。レインズは、宅地建物取引業法で定義している指定流通機構という枠組みの中で作られている、事業者間のネットワークシステムです。レインズの情報は、前述した個人情報の観点や、宅地建物取引業者に課せられている守秘義務の観点から、そのまま一般公開することはできません。そこでRMIでは、一定の条件を満たす成約価格の情報について、物件を特定できないように、かつ、ある程度の相場観が分かるように加工して提供しています。つまり、レインズのデータをベースにしていますが、消費者が利用できるように独自にシステム開発をしたものです。
――全国で約2万4000件の情報が登録されているとのことですが。
前述した条件に合致した情報が、現状で約2万4000件あります。今のシステムは、前述した留意点に関して最も保守的な立場で開発した結果、狭いエリアでの相場観を得るのが難しいといったいくつかの問題点があります。この点について、個人情報保護などの留意点とのバランスを見ながら、どこまで拡充できるかを検討しているところです。
※国土交通省作成資料
消費者への不動産知識の普及や提供情報の活用が重要課題
――提供された成約価格情報などの情報を、消費者はいつどのように活用したらよいのでしょうか?
不動産ジャパンでも相場情報を調べることができるコンテンツ「相場・取引動向」がありますが、「特定の地点の価格を知る」としてRMIのサイトへリンクしています。不動産ジャパンでも紹介されている通り、自分の所有する物件の価格を知りたい時や、相場観を養いたい時に使ってもらえればよいと思います。
例えば、住み替えを考える際には、希望エリア、間取り、予算などのニーズを明確にしていきますが、ご自身の予算とエリアなどの条件が一致するのかなどを調べる時に使うとよいでしょう。また、現在不動産を所有している場合は、その不動産の活用方法を考える際に、売るとしたらいくら、貸すとしたらいくらというシミュレーションをする上でも、提供情報を利用できるでしょう。
――最後に、今後力を入れて取り組んでいきたいことをお教えください。
不動産流通市場の健全な育成に向けての取り組みをしているわけですが、一つ目は、4月にリニューアルされた不動産ジャパンの認知度を上げて、消費者に利用していただくということです。2年前の検討委員会で提案された基本コンセプトに基づいてリニューアルが行われましたが、消費者ニーズが刻一刻と変化していく中で、不動産市場にかかわる人々のニーズを継続的に反映していく動きが必要になってきます。言い換えれば、不動産ジャパンのさらなる充実と活用の促進ということになるでしょう。
二つ目は、消費者への不動産知識の普及・啓蒙です。不動産取引、特に売買については、個別性が高く消費者の取引経験も少ないものです。事業者から専門的な知識の説明を受けたとしても、自分のニーズがどこにあるかによって理解の深さは変わってきます。消費者と事業者の相互のキャッチボールがないと、最終的な取引で双方が満足することは難しいのです。このようなことについて、課題や必要な対策について把握しつつ、実行していくことが重要だと考えています。
※インタビューの内容は、2009年4月時点の取材によるものです。