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2012年の不動産業行政について・国土交通省不動産業課にて本年重点的に取り組むべき主要施策を紹介

2012年2月8日

Report
国土交通省 土地・建設産業局 不動産業課
 

昨年は、東日本大震災、原子力災害、大型の台風12号など、近年にもまれに見る甚大なる災害の多い年でした。この場をかりまして、まず、被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。不動産事業に関係される方々にも、被災者の方々の住宅確保支援などご尽力いただき、心より御礼申し上げます。
今回は国土交通省不動産業課が取り組んでおります重要課題、とりわけ本年重点的に展開していくべき主要政策につきまして、ご紹介させていただきます。

国土交通省全体の施策

まず、不動産業行政について説明を申し上げる前に、現在の国土交通省全体の取り組みについてご紹介させていただきます。昨年3月11日に発生した東日本大震災並びに原発事故は、被災者の生活や生産の基盤を壊滅的に破壊するのみでなく、国土のあり方自体に大きな課題を提起しました。国土交通行政においては、被災地の復旧・復興、さらには復旧・復興にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた対応が必要な状況です。
今後の国土交通行政の展開としては、復旧・復興はもとより「低炭素・循環型社会への移行」、「少子高齢化等を踏まえた地域づくり」等の観点も含め、持続可能で活力ある国土づくりを推進していくこととしております。また、施策の展開に当たっては、ハードウェアとソフトウェアの連携、あるいは、PPPやPFI(PPP(Public Private Partnership)官民連携、PFI(Private Finance Initiative)民間資金等を活用した社会資本整備)など民間の知恵と資金を活用するためにこれまで取り組んできた手法の導入をさらに進めていきたいと考えております。

不動産業を取り巻く状況と不動産市場の活性化

昨年の日本経済を巡る状況は、震災前においては、平成20年のリーマンショック以降の落ち込みからの改善、その後の足踏み状態を経て、アジアにおける生産調整の進展などにより、景気は再び持ち直しに転じつつありました。こうした状況の中で東日本大震災が発生し、日本全体の生産活動や消費者行動に大きな変化をもたらしました。
住宅・不動産市場につきましては、震災後の住宅着工戸数を見ると、一昨年からの回復基調から、年ベース80万戸前後の低水準で推移することとなりました。一方で、そのような大きな打撃への反動か、一時的に首都圏におけるマンション契約戸数や契約金額が前年比で増加するなど不動産市況の改善局面も見られました。震災後の状況は、変動が大きく、予断を許さない厳しい状況が続いております。
こうした状況などを踏まえ、政府としてもこれまで実施し、いったんの終了を迎えた住宅エコポイントについて平成23年度第三次補正予算に復興支援・住宅エコポイントの再開を位置づけるなど、緊急性・即効性の高い施策に取り組んでいるところです。今後、我が国経済の安定的な成長を図っていくためには、1,400兆円にも及ぶ個人の金融資産を活用しながら、住宅・不動産市場の活性化を通じた内需主導による経済活性化や震災を契機としたイノベーションの活性化を図ることが重要な課題となっております。

以下、個別の政策課題について、当課の取り組みをご紹介させていただきます。

不動産行政における新たな政策展開

(1)賃貸住宅管理業者登録制度の施行 
民間賃貸住宅は、現在約1,340万戸存在し、我が国の住宅ストックの4分の1以上を占め、多くの国民にとって必要不可欠な生活基盤ですが、民間賃貸住宅の所有者のうち8割近くの方が、一部または全部の管理を管理会社に委託していることから、管理会社は、国民の生活ニーズを満たす重要な役割を担っていることが伺えます。
賃貸住宅市場における管理業者の役割は重要である一方で、国民生活センターなどに寄せられる賃貸住宅に関する相談件数は年間3万件を超えるなど、毎年増加傾向にありました。その相談内容の多くは、敷金の返還、契約更新、原状回復といった管理業務に関するものであるにもかかわらず、賃貸住宅の管理業については特段の法規制が設けられていないのが現状でした。
このような状況に鑑み、国土交通省では、賃貸住宅管理業に関して一定のルールを設け、管理業者の業務の適正化を図るとともに、借主などの利益を保護するため、国土交通省告示による任意の賃貸住宅管理業者登録制度を昨年9月30日に公布し、同年12月1日から施行しました。本制度の施行により、登録業者名やその業務状況などを一般に閲覧することが可能となり、借主や貸主は、登録業者の情報などをあらかじめ確認し、管理会社や賃貸住宅を選択する際の判断材料として活用することができるようになりました。
貸主、借主、管理会社の間に賃貸住宅の管理業務に関する一定のルールを設ける本制度が普及することで、賃貸管理の共通化・標準化が進み、適切に管理が行われ、トラブルの発生を未然に防ぐことができる、安心して住むことができる賃貸住宅市場が形成されることを期待しております。

(2)マンション管理に関する課題への対応
分譲マンションでは、多様な価値観を持った区分所有者間の意識の相違、建物の老朽化、居住者の高齢化、管理への無関心等を背景に、管理組合が十分に機能しないといった実態が生じています。特に、区分所有者の高齢化、専有部分の賃貸化の進行等により管理組合の役員の担い手不足の問題が顕在化しつつあり、このため、一部マンションにおいては、マンション管理会社等が理事長に代わり管理組合の管理者となる、いわゆる「第三者管理」によるマンションも出てきております。
マンションの管理は、所有者である区分所有者自らが行うことが基本ではありますが、先に述べた事情により、外部の者に任せることがやむを得ない場合もあります。
このため、国土交通省では、第三者管理者方式の活用が、適切に管理を行う選択肢の一つとなるよう、管理者や管理会社等の間における新たなルールの作成、管理者の業務遂行に対するチェック体制の強化等について、幅広い観点から検討を進めているところであり、引き続き、マンション管理の適正化に取り組んで参ります。

(3)不動産流通市場の活性化に向けた取り組み
現在の日本は人口減少・少子高齢化社会と言われており、同時に環境負荷の低減等も大きな課題となっています。そのため不動産市場においては、住宅を含めた既存ストックの有効活用が喫緊の課題となっています。また、日本は欧米諸国に比べて、新築住宅と比べた既存住宅の流通の割合が圧倒的に低い状況にあることも課題の一つと考えられます。
このように日本において既存住宅の流通が進まない原因には、既存住宅の価格に関する市場動向、建物の品質に関する情報、リフォームの費用や方法といった情報が、消費者に適切に提供されていないことが挙げられます。また、実際の既存住宅の取引の場面で消費者に直に接する仲介会社が、必ずしもリフォーム等に関する消費者からの相談に十分応えられていないことも、課題の一つと言えます。
国土交通省ではこうした課題を解決するため、幅広い業界の有識者を集め、不動産取引における新たな取り組みについての提言を募り、最終的にそれらの提言を行政の施策に反映させること等により既存住宅流通を活性化させることを目的として、平成23年10月に「不動産流通市場活性化フォーラム」を設置いたしました。
本フォーラムでは主に、消費者が不動産取引において必要とする情報の把握・蓄積や、仲介会社の総合コンサルティング能力の向上等について議論を行っております。
本フォーラムは本年夏頃を目途に取りまとめを行う予定で、国土交通省においては、本フォーラムで議論された内容を、今後の行政の施策への反映や流通市場活性化に向けた機運の醸造につなげることを目指しています。また、既存住宅を安心して取引できる環境を整備することにより、消費者の皆さんがこれまでより幅広い選択肢の中から最適な住まい選びができるような市場作りを進めていきます。

(4)宅地建物取引に係る悪質な勧誘に関する対策について
投資用マンションの販売などの悪質な勧誘については、消費生活センターに寄せられるマンションの強引な勧誘や長時間・深夜勧誘などに関する苦情相談が年々増加し、過去5年間で2万2千件を超える相談が寄せられるなど社会問題化が進んでいました。このような状況を踏まえ、昨年3月の行政刷新会議「規制仕分け」や4月の閣議決定「規制・制度改革に係る方針」において、規制強化の方向性が示され、さらに、5月には消費者委員会から国土交通大臣及び消費者担当大臣に対して対策の必要性の建議も提出されました。
国土交通省では、閣議決定等を踏まえ、昨年8月に宅地建物取引業法施行規則を改正し、例えば、宅地建物取引業者の相手方等が契約を締結しない旨の意思を表示したにもかかわらず勧誘を継続することは禁止されるなど、規制内容を明確化し、当該改正の留意事項についても新たに示すこととしました。
悪質な勧誘にかかわる問題については、今後も、昨年8月の改正内容について宅地建物取引業者向けの説明会の開催などにより周知徹底を図っていくとともに、都道府県をはじめとする関係行政機関と連携を図りつつ、当該事案の発生防止に適切に対処していくとともに、悪質勧誘事業者に対しては厳正に対処して参ります。

その他の諸課題への対応

(1)不動産業における反社会的勢力の排除に向けた取り組み
近年の暴力団等の反社会的勢力は、組織形態を巧妙に隠蔽しながら、暴力団関係者や共生者を利用して、不動産取引を始め、様々な経済活動への進出を強めていることから、これまで以上に反社会的勢力を排除する必要性が高まっています。
こうした中、政府においては、平成19年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)」が取りまとめられ、さらに平成22年12月には「企業活動からの暴力団排除の取り組みについて(暴力団取締り等総合対策WT(ワーキングチーム))」が取りまとめられたほか、いわゆる暴力団排除条例についても、昨年10月をもって全都道府県で施行されるなど、その機運はさらに高まっているところです。
不動産業界においても、こうした時代の要請に適切に対応するため、具体な取り組みがなされておりますが、特に昨年は、不動産関係5団体において、国土交通省及び警察庁を交えた検討を踏まえ、不動産売買等における契約書に盛り込むべき暴力団排除に関するモデル条項が策定されたほか、警察庁や全国暴力追放運動推進センターなどの外部専門機関と不動産業界との連携強化等を目的とした「不動産業・警察暴力団等排除中央連絡会」を設立するとともに、第1回の連絡会において「不動産取引における暴力団等反社会的勢力排除の5原則」を採択するなど、不動産業としての反社会的勢力排除の姿勢・取り組みが、より着実に進められてきたところです。
国土交通省としましては、引き続き、こうした不動産業からの反社会的勢力の排除を含めた業界のコンプライアンス体制確立に向けた活動に対して支援を行って参ります。

(2)不動産業における節電への対応
東日本大震災に端を発した東京・東北電力管内の電力供給量の大幅な減少により生じた大きな電力需給ギャップに対処するため、やむを得ない措置として計画停電が実施されました。国民・産業界の節電への最大限の協力、取り組みの結果、需給バランスは改善し、懸念された大規模停電は回避され、昨年4月8日には、計画停電は「実施が原則」から「不実施が原則」へ移行しましたが、夏に向けて電力需給バランスの悪化が見込まれたため、電気事業法第27条による電気の使用制限なども講じられました。
このような経験を通じ、電力は、国民生活や国の活力となる産業活動にとって極めて重要な資源であるということが改めて認識されました。不動産業は多様な関係者と接する重要産業であり、とりわけ不動産業において節電に取り組むためには、それらの方と協調した、例えばオフィスビルにおいてテナントと協力した節電の取り組みが重要です。
電力需給については一時の急激な危機は乗り越えたものの、まだまだ予断を許さない状況です。今後とも環境負荷の低減に寄与しうる節電に取り組んでいくことが必要と考えております。

本年も皆様のご意見に耳を傾け、関係機関と連携を図りながら、政策展開を進めてまいりますので、引き続き、よろしくお願い申し上げます。


※執筆の内容は、2012年1月末時点によるものです。

国土交通省

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