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かしこい消費者が育つためのインフラ整備のあり方について・インターネットや対面等による消費者教育・啓蒙のための情報提供が重要

2010年5月12日

Report
国土交通省 総合政策局 不動産業課
 

国土交通省では、有識者による委員会を通じて、不動産取引に臨む消費者に啓発機会を均等かつ迅速に提供するために必要なインフラ構築についての諸課題の検討を行っています。今回は、「かしこい消費者()」をめざす皆さんにむけて、その概要についてご担当者にご執筆をお願いしました。

ここでいう「かしこい不動産消費者」とは、単に知識を有するだけでなく、その知識を基に自身のニーズに即して不動産取引に臨み、また、トラブルにも適切に対応でき、トラブルを未然に回避できる消費者のことです。
 
不動産消費者が抱える問題

不動産取引は、多くの消費者にとって何度も経験するものではなく、数回程度であることから、知識を習得するための体験頻度が少ないという特徴を有しています。また、体験頻度が少ないにもかかわらず、不動産取引は、非常に高額な取引であったり、専門的・応用的な知識も必要とする取引であったりする特徴も有しています。
一方で、不動産取引を行う多くの消費者にとっては、そもそも、契約行為そのものになじみが薄く、また、法的にも経済的にも、契約を行うに当たって必要な知識は、日常生活において通常求められるものではないことから、多くの消費者にとってこれらの知識が過分に不足しているという現状が認められます。
また、不動産取引に初めて臨む消費者は、取引への関心が喚起された時点で既に取引が進行している場合が多いことから、不動産取引予備軍の人々に対する意識啓発という観点も重要であると考えられます。

「かしこい不動産消費者」が育つためのインフラとは

不動産消費者からの相談内容には、一般的な知識を習得することにより、回避できたと思われるトラブルが多く含まれます。こうしたトラブルへの対応として、消費者からの個別の問い合わせへの相談サービスについては、内容が網羅的で、トラブルの予防措置や発生後の措置などに対応していることから、消費者にとって意義のあるものと考えられます。しかし半面、その実施体制を一定規模で維持するためには、人的にも費用的にも負担が大きくなります。
そこで、相談サービスの体制を一定規模のままで、消費者に対するサービス提供を効果的にするためには、図表1のような対応が必要となります。

(1)トラブルを未然に防ぐための基本的な対応がとれるようにするための知識の普及を図る。
(2)消費者が相談する際に、まず何をすべきであるかを確認する。
(3)その上で相談しなければならない事項であるという判断(一次切り分け)が可能であるようにする。

上記の対応を図るための消費者教育・啓発の方策として、インターネットを活用したコンテンツの提供を図ること、体験型イベントや短期間授業の実施、関係業界による出前講座の実施などが考えられます。それぞれの特徴を活かしながら、コンテンツ等を整備することが必要となります(図表2参照)。
また、高等学校の授業で利用できる不動産教育用の補助教材が現状では提供されていないことから、こうした資料を作成することや、不動産取引については何度も経験する消費者は少なく、大半の消費者は数回程度であることにかんがみれば、これを補うためのコンテンツや教育・啓発ツール(ソフトウェアによるシミュレーションや模擬取引など)を提供することも有効です。さらに、最近では、インターネットに限らず、情報提供インフラとしての携帯電話の普及は目覚ましく、モバイルコンテンツの提供等の重要性も認識されるところであります。
さらに、こうした不動産消費者教育・啓発への取り組みについては、不動産業界においても、不動産業者自らが社会貢献活動の一環として、不動産消費者教育・啓発を実施・推進していくことが、併せて望まれるところであります。

図表 1 かしこい消費者育成のための消費者への情報提供のモデル

現状の問い合わせに関する状況 かしこい消費者育成のための考え方

図表 2 インターネットによるコンテンツとそれ以外のコンテンツの比較

  インターネットによる提供 対面等による提供
インターネット/
電話相談
体験型イベント・
短期間授業等
利用対象者幅広く設定可能である。幅広く設定可能(体制による)である。一般的には初心者向けが多い。
情報の網羅性網羅的に設定することが可能である。対応できる相談内容自体は一般的には網羅性が高い。体験型であるため網羅性は低いことが一般。
情報の利用しやすさWeb上に置かれていればいつでも誰でも利用できる。受付・処理とも、体制により限定されうる。利用可能な者の数が限定されやすい。
利用場面トラブル前・トラブル後、いずれも内容に応じて可能である。トラブル前・トラブル後、いずれも受付体制等に応じて可能である。トラブル発生前を目的とする。
トラブルへの対応知識を習得してそれを活かす、という形をとるので、利用者に依存する。個別案件への対応が可能であることから、トラブルが発生した後の対応にもつなげやすい。提供情報量が限定的なので、重要な内容だけを伝えることで注意を喚起する形が一般的である。
情報提供の負担内容に依存するが、一般的には一回作成すれば、事後の負担は少なく、更新作業や追加作業が中心である。個別に回答が必要であることから、運営の負担は継続的に一定量、発生する。実施自体における負担は、継続的に発生する。
不動産取引に関しての提供状況不動産ジャパンで、売買・賃貸借の場合について網羅的なものが提供されている。不動産流通近代化センターほか各団体、自治体等で実施されている。一部大学などにおいて実施されている。
全体的な特徴コンテンツ自体の設定や、利用者の利用場面などにおいて自由度が高い。個別のケースに対して、様々なレベルの消費者への対応が可能である。基礎的な知識の教育・啓発という点で見ると、浸透効果が高い。
課題整備したコンテンツの周知をいかに行うか。
消費者のインターネットに関するスキルに依存しやすい。
相談を受ける人員の確保やこれに伴う財政的な確保をいかに行うか。教育機関等の協力が不可欠である。
イベント自体の周知をいかに行うか。

まとめ「不動産消費者に必要な消費者教育・啓発のあり方」

1.簡易なインターネットコンテンツの有用性
まず、不動産取引は、多くの消費者にとって何度も経験するものではなく、数回程度であることから、知識を習得するための体験頻度が少ないという特徴を有しています。また、体験頻度が少ないにもかかわらず、不動産取引は、非常に高額な取引であったり、専門的・応用的な知識も必要とする取引であったりする特徴も有しています。
このような不動産取引に特有の特徴があるにもかかわらず、不動産取引を行う多くの消費者にとって、そもそも契約行為そのものになじみが薄く、また、法的にも経済的にも、契約を行うに当たって必要な知識というのは、日常生活において求められるものではないことから、多くの消費者にとってこれらの知識が過分に不足しているという現状が認められます。
そこで、こうした不動産消費者が抱える問題をカバーするための方策として、インターネットを活用して、不動産取引に関する基礎知識(法的基礎知識や経済的基礎知識)、取引の各段階に応じた取引実務上のポイントの体系化、実践力を確保することに資するような、簡易なコンテンツを提供することが有用であると考えられます。

2.インターネット以外のインフラの重要性等
しかしながら、インターネットについては、不動産消費者に必要なインフラとして極めて重要な役割を果たしている一方で、整備したコンテンツの周知をいかに行うか、また、消費者のインターネットに関するスキルに依存しやすいなど、いかに消費者にコンテンツ・情報の提供を行い、それを見てもらうのかという意味で、受け身に回ってしまうという問題があります。
そこで、こうしたインターネットの弱点を補うべく、併せて体験型イベントや短期間授業の実施、対面での知識提供や相談窓口機会の提供等、受け身ではなく、積極的・直接的な不動産消費者への情報提供を行うことも非常に重要です。
また、不動産取引を何度も経験する消費者は少なく、大半の消費者は数回程度であるという特徴を踏まえたコンテンツや教育・啓発(ソフトウェアによるシミュレーションや模擬取引、ゲームなど)を提供することも考えられます。
さらに、最近では、インターネットに限らず、情報提供インフラとしての携帯電話の普及は目覚ましく、モバイルコンテンツの提供等の重要性も認識されます。

※執筆の内容は、2010年4月末時点によるものです。
:平成27年4月1日から(公財)不動産流通近代化センターの名称は(公財)不動産流通推進センターに変更されました。

国土交通省


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