トップ国土交通省・最新の動き>VOL.154 令和3年版土地白書について

国土交通省・最新の動き今までの掲載記事

令和3年版土地白書について 「令和2年度土地に関する動向」及び「令和3年度土地に関する基本的施策」

2021年9月8日

Report
国土交通省 政策統括官付
 

2021年6月15日に「令和3年版土地白書」が閣議決定されましたので、今回はその内容についてご紹介します。

土地白書とは

土地白書は、土地基本法(平成元年法律第84号)の規定に基づき、土地に関する動向等について、毎年国会に報告しているもので、本年版は、「令和2年度土地に関する動向」と「令和3年度土地に関する基本的施策」の2つに分かれています。

まず、第1部「土地に関する動向」については、第1章で地価を始めとする不動産市場等の動向や、土地問題に関する国民の意識調査結果等を報告しています。次に、第2章では、国民の生命・生活を守るための土地利用等に係る動向について記述しています。
第2部では、令和2年度に政府が土地に関して講じた施策、第3部では、令和3年度に政府が土地に関して講じようとする基本的施策について記述しています。
今回は第1部「土地に関する動向」についてご紹介します。

[第1部第1章] 令和2年度の不動産市場等の動向

国土交通省「地価公示」により、令和3年1月1日時点における全国の地価動向をみると、全用途平均は平成27年以来6年ぶりの下落となり、用途別では、住宅地は平成28年以来5年ぶり、商業地は平成26年以来7年ぶりの下落となり、工業地は5年連続の上昇となりましたが、上昇率は縮小しています。
三大都市圏の平均変動率でみると、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも、平成25年以来8年ぶりの下落となり、工業地は7年連続の上昇となりましたが、上昇率は縮小しています。
地方圏では、全用途平均・商業地は平成29年以来4年ぶり、住宅地は平成30年以来3年ぶりの下落となり、工業地は4年連続の上昇となりましたが、上昇率は縮小しています。地方四市のうち、札幌市、仙台市、福岡市では、昨年より上昇率は減少したものの、比較的高い上昇率が継続しています。

新型コロナウイルス感染症の影響により全体的に需要が弱含みとなっている背景として、住宅地については、雇用・賃金情勢が弱まり需要者が価格に慎重な態度となる中で、取引の減少、建築費等の上昇の継続などがあげられます。商業地については、先行き不透明感から需要者が価格に慎重な態度となる中で、店舗の賃貸需要やホテル需要の減退、外国人観光客をはじめとする国内外からの来訪客の減少により収益性が著しく低下していることなどがあげられます。ただし、住宅地については、低金利環境の継続や住宅取得支援施策等、商業地については、経済対策や企業の資金繰り支援等を背景に、リーマンショック後の平成21年、平成22年の地価公示と比較すると、落ち込みは小さくなっています。
長野県軽井沢町、静岡県熱海市の熱海駅周辺では、新型コロナウイルス感染症の拡大後に移住や二地域居住を目的とした住宅需要が増加し、住宅地の地価が上昇しています。

【図表1】地価変動率の推移(年間)

図をクリックすると拡大表示されます
【図表1】地価変動率の推移(年間)

国土交通省では「土地問題に関する国民の意識調査」を毎年行っています。不動産取引時に主にどのような情報を参考にしたか(又は、参考にするか)国民の意識をみると、「周辺の公共施設等の立地状況・学区情報」を挙げた者の割合が62.1%と最も高く、以下、「ハザードマップ等の災害に関する情報」が41.5%、「住宅の維持保全に関する情報」が31.0%の順となっています。

【図表2】不動産取引時に参考にしている情報(ハザードマップ等の非価格情報)(複数回答)

図をクリックすると拡大表示されます
【図表2】不動産取引時に参考にしている情報(ハザードマップ等の非価格情報)(複数回答)

[第1部第2章]  国民の生命・生活を守るための土地利用等に係る取組

本章では、国民の生命・生活を守るための土地利用等に係る動向として、まず第1節において、新型コロナウイルス感染症による不動産市場等への影響と対応を、第2節で、防災・減災に対応した土地等の活用を取り上げるとともに、第3節で東日本大震災からの復旧・復興の状況と土地利用に関する取組を取り上げています。

●第1節 新型コロナウイルス感染症による不動産市場等への影響と対応

本節では、不動産市場等の動向を示す各種データを示した上で、「感染拡大により影響を受ける事業者等への支援制度」を取り上げるとともに、ウィズコロナやポストコロナ時代を見据えた「土地利用の変化」等に関する事例を記載しています。

○感染拡大により影響を受ける事業者等への支援制度

新型コロナウイルス感染症の影響により経済が大きな打撃を受ける中で、GDPは大きく落ち込んでおり、企業の経営環境の改善や民間投資の喚起等が急務となっていました。令和3年度は、固定資産税の3年に一度の評価替えの年であり、近年、地価が全国的に上昇傾向にあった中で、多くの地点で固定資産税負担が増加する見込みでした。
商業地の地価の状況を見ると、新型コロナウイルス感染症の影響により、令和2年7月時点では三大都市圏や地方圏の一部では上昇が続いている一方で、全国では5年ぶりに下落に転じました。
このような状況を踏まえ、固定資産税の負担調整措置については、納税者の予見可能性に配慮するとともに固定資産税の安定的な確保を図るため、令和3年度から令和5年度までの間、下落修正措置を含め土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続することとしています。
その上で、新型コロナウイルス感染症により社会経済活動や国民生活全般を取り巻く状況が大きく変化したことを踏まえ、納税者の負担感に配慮する観点から、令和3年度に限り、負担調整措置等により税額が増加する土地について前年度の税額に据え置くこととしています。

○土地利用の変化

国土交通省では、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける飲食店等を支援するための緊急措置として、テイクアウトやテラス営業などのための道路占用許可基準の緩和措置を行いました。
これを受け、埼玉県さいたま市では、一般社団法人アーバンデザインセンター大宮、さいたま市、おおみやストリートテラス実行委員会が実施主体として、大宮らしい新たな生活に向けた社会実験「おおみやストリートテラス@一番街」を令和2年8月1日から実施しています。期間中、一番街の店舗の軒先に飲食スペースや販売スペースが設置され、屋外で3密を避けながら、料理や買い物を楽しむことができるようになっています。当該取組を通じ商店街の参加店舗同士で情報共有を積極的に行おうとする連携強化の動きが起きたなど、一定の効果がありました。

【図表3】おおみやストリートテラス@一番街の取組

図をクリックすると拡大表示されます
【図表3】おおみやストリートテラス@一番街の取組

●第2節 防災・減災に対応した土地等の活用

本節においては、近年の自然災害発生状況等を振り返るとともに、激甚化・頻発化している自然災害に対応するため、国、地方公共団体及び民間事業者による土地活用等に係る取組を取り上げています。

○防災・減災に資する制度改正等の取組

安全で魅力的なまちづくりを推進するため、「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第43号)が、令和2年9月に施行されています。
安全なまちづくりに関して、具体的には、災害レッドゾーンにおける自己業務用施設の開発の原則禁止や、市街化調整区域の浸水ハザードエリア等における住宅等の開発許可の厳格化、居住誘導区域外における災害レッドゾーン内での住宅等の開発に対する勧告・公表により、災害ハザードエリアにおける新規立地を抑制することとしています。
また、市町村による災害ハザードエリアからの円滑な移転を支援するための計画作成により、災害ハザードエリアからの移転の促進を図るとともに、居住誘導区域からの災害レッドゾーンの原則除外や居住誘導区域内の防災対策を盛り込んだ「防災指針」の作成により、立地適正化計画と防災との連携を強化することとしています。

【図表4】頻発・激甚化する自然災害に対応した「安全なまちづくり」

図をクリックすると拡大表示されます
【図表4】頻発・激甚化する自然災害に対応した「安全なまちづくり」
資料:国土交通省

○地方公共団体による取組

二級河川日高川河口右岸から海岸沿いに位置する和歌山県美浜町においては、県の南海トラフ巨大地震による津波想定では、町全域の約46%、住宅地の約90%に相当する590haの津波浸水が想定され、海際や河川に近い低地部の人家のある地域では7mを超える浸水深が想定されています。また、津波到達時間は、津波高1mが16分、津波高5mが20分の想定となっており、津波避難対策が急務となっていました。
  美浜町は、平成27年3月、南海トラフ巨大地震津波避難に関する整備計画を作成し、平成28年7月より、松原地区の標高15.5mの高台に、避難困難地域の全人口を収容できる高台避難施設の整備を進め平成29年11月に完成しました。収容人数は約2,000人で、新浜・浜ノ瀬・田井畑の避難対象者すべてが避難でき、トイレ、生活必需品、非常食を保管する備蓄倉庫なども設置しています。

【図表5】和歌山県美浜町松原地区高台津波避難場所

【図表5】和歌山県美浜町松原地区高台津波避難場所
資料:和歌山県、美浜町、(株)浅川組

●第3節 東日本大震災からの復旧・復興の状況と土地利用に関する取組

本節では、現在の復旧・復興の状況について整理するとともに、復旧・復興に向けた具体的な取組のうち、土地利用に関する取組について取り上げています。

○東日本大震災からの復旧・復興の状況

災害公営住宅及び高台移転については、令和2年12月末時点で、災害公営住宅約3万戸及び高台移転による住宅用の宅地約1万8千戸が完成し、原発避難者向け及び帰還者向けの災害公営住宅を除き、整備が完了しています。

【図表6】災害公営住宅及び民間住宅用宅地の整備完了進捗率推移

図をクリックすると拡大表示されます
【図表6】災害公営住宅及び民間住宅用宅地の整備完了進捗率推移

○被災地における土地利用に関する取組

震災後、宮城県石巻市雄勝町に慰霊と交流・憩いの場を作るため、平成25年に一般社団法人雄勝花物語によって「雄勝ローズファクトリーガーデン」が造成されました。平成30年には背後地に70m移転し、コミュニティガーデンの運営が続けられています。
移転する際には、一般社団法人雄勝花物語を中心に住民主体で周辺の土地利用計画の議論を進め、千葉大学の支援によって「雄勝ガーデンパーク構想」が策定されました。その後、復興庁の支援等により、雄勝ローズファクトリーガーデンを中心に、収益事業としてオリーブ園やワイン用ブドウ栽培の他に、パークゴルフ場や研修農園、花や果実の摘み取り農園、花と緑の広場などによる利活用の計画が具体化され、計画実現に向けた取組が進んでいます。石巻市は雄勝地区において移転元地利活用のモデルを構築し、その手法を他の半島部にも適用していく予定です。

【図表7】雄勝ローズファクトリーガーデン

【図表7】雄勝ローズファクトリーガーデン
資料:(一社)雄勝花物語

土地白書本文の公開について

今回は、土地に関する動向について概要を紹介しましたが、土地白書本文では各種統計データを用いたより詳細な分析と、政府の土地に関する基本的施策を記載しています。土地に関する動向や施策について理解を深める際の参考としていただければと思います。

※執筆の内容は、2021年5月末時点によるものです。

国土交通省


詳しくは、国土交通省ホームページ「土地白書」を参照ください。

ページトップ