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「住宅市場動向に関する指標のあり方の検討」について・不動産投資・流通市場の活性化のために、住宅価格指数の開発が求められる

2010年2月1日

Report
国土交通省 総合政策局 不動産業課
 

今回は、「住宅市場動向に関する指標のあり方の検討」について、ご担当者にご執筆をお願いしました。

検討の背景と目的

既存住宅の価格は住宅ストックの価格変動を知る上で必要不可欠な情報です。わが国では新規住宅建設(フロー)重視から既存の住宅投資やその価値の向上(ストック)も重視するという政策転換が図られつつあります。そうした背景から、既存の住宅の価値および家賃水準(住宅のファンダメンタルズ)の変化に関する情報を共有することの重要性が、近年、特に高まっています。
住宅の価格(および住宅の賃料)に関する望ましい価格指数を開発することには、

 1.既存住宅流通やファミリー向け賃貸住宅の価格や賃料の適正な評価を支援する。
 2.住宅ローンの融資およびその関連事業の支援となる。
 3.住宅価格の下落に保険をかける際の契約の決済を可能にする。
 4.日本版不動産投資信託市場(Jリート)の健全な育成に寄与する。

といった様々な意義があり、住宅市場の客観的な評価を容易にし、もって広く不動産投資・流通市場の活性化に資することが期待されます。

住宅価格指数と要件

(1)標本の適切さ(correctness)
 1.成約価格データを用いること
 2.価格変動の大部分が市場トレンドであること

(2)指数の精確さ(accuracy)

(3)指数の信頼性(reliability)
 1.住宅価格指数を算出、公表する組織や仕組みが安定的であること
 2.住宅価格指数が一貫性あるいは等質性を備えていること
 3.住宅価格指数の「ブランドの信頼性」(Brand Reliability)

(4)指数の有用性(availability)
 1.頻度が高いほど住宅価格指数の有用性は高まること
 2.調査カバレッジが広いこと
 3.多目的利用の可能性
 4.指数先物等契約決済への利用可能性

住宅価格指数の整備のあり方

(1)価格情報の種類
住宅価格指数の原データとして、募集価格と成約価格とのどちらを用いるかは、各々が有する優位性を考慮して決めていくべきですが、欧米等と比較し、わが国においても、広く収集された成約価格に基づく住宅価格指数の整備が必要であると考えられます。

(2)指数算出方法の開発主体
米国のケース・シラー住宅価格指数は、S&P社が米エール大学のロバート・シラー教授、ウェズレー大学のカール・ケース教授らと共同で開発しており、また、昨今では、香港大学や精華大学が住宅価格指数の開発を開始しています。このように、諸外国においては、指数開発の専門家・専門組織による開発が進められており、わが国においてもその指数の客観性・汎用性を高める観点からも、そのような専門家・専門組織による開発が望ましいと考えられます。

(3)指数の算出主体
指数の算出主体としては、
 1.指数算出方法の開発主体が自ら原データを収集して指数を算出する方法
 2.指数算出方法の開発主体が、その算出方法の使用を第三者に許諾して、
  当該第三者が原データを収集して指数を算出する方法
 3.指数算出方法の開発主体が、その算出方法の使用を原データ所有者に許諾して、
  当該原データ所有者が指数を算出する方法
等が考えられます。
ちなみに、ケース・シラー住宅価格指数は、民間会社ファイサーブ社が、S&P社のパートナー(事業提携)となって算出を行う3.のスタイルをとっています。

(4)算出された指数の公表主体
指数の算出主体が自ら公表することも考えられますが、より広く一般に信頼されるものになるためには、格付機関や証券取引所、シンクタンクなど中立性・公平性があり、また、多様なチャネルを通じて幅広い地域に配信でき、それなりの信用・実績のある組織が、算出された指数を公表することが有効であると考えられます。

(5)想定される指数の利用主体
指数の利用者としては以下のような主体が考えられます。
 ・建設業者、不動産業者(デベロッパー等)、住宅市場関係者
 ・金融機関、投資家
 ・学識経験者、アナリスト
 ・調査機関
 ・行政(政策立案者等)
 ・一般消費者、不動産保有者

(6)利用例
1.住宅投資市場の活性化
当該指数の公表により、マンションや戸建て住宅の価格・賃料動向に関する投資判断が精緻化し、わが国の住宅投資市場に投資するリスクが軽減されるため、国内外の機関投資家、金融機関、アナリスト、調査機関等幅広い関係者においてその利用が見込まれるものと考えられます。

2.新たな金融商品の開発・利用
当該指数に連動した先物商品やETFが開発されれば、例えば、不動産を所有する者がその先物商品をあらかじめ売っておくことにより、不動産価値下落リスクをヘッジできるなど、新たな金融商品の開発・利用につながるものと考えられます。

3.住宅流通の活性化
当該指数を活用することにより、既存住宅流通やファミリー向け賃貸住宅の価格や賃料の市場動向の評価・分析が可能となり、住宅流通の活性化に資するものと考えられます。例えば、住宅の購入希望者においては、購入時期、購入価格等を検討する際の基礎資料となったり、自己が保有する資産(不動産、金融資産等)の有効活用の際の基礎資料となります。また、不動産デベロッパーや流通事業者においても、事業計画策定・マーケティング活動、顧客(売り主・買い主)に対する不動産価格情報の提供の際の参考情報となることが考えられます。

住宅価格指数の実用化に向けての課題

指数の作成方法については、わが国の不動産情報の整備と実情に応じた、適切なモデルや推定方法に選択の余地があります。その検討については、引き続きの課題です。
わが国不動産投資・流通市場の活性化に向けて、内外の投資家の呼び込みや既存住宅の流通を促進するためには、関連する有用な情報を広く提供していくことが重要です。特にマンション等の住宅投資市場については、オフィス投資市場などに比べ、物件価格、賃料等のデータが不十分で、価格動向等が把握しにくいため投資の障害になっているといった指摘が多くあります。
国土交通省としては、適切な住宅価格指数の早期開発・公表に向けた具体的取り組みが行われるよう、今後も関係機関等と協力しながら進めてまいります。

 図:日米住宅価格指数のイメージ
図:日米住宅価格指数のイメージ
 ※出典:住宅市場動向に関する指標のあり方の検討業務 報告書

※執筆の内容は、2010年1月時点によるものです。

国土交通省


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