トップ>国土交通省・最新の動き>VOL.117 「働き方改革を支える今後の不動産のあり方」について
2018年8月08日
国土交通省では、働き方や暮らし方の変化に対応した今後の不動産のあるべき姿等を検討するため、昨年12月に、「働き方改革を支える今後の不動産のあり方検討会」を設置し、議論を行ってきました。今般、これまでの議論を踏まえ、不動産のあり方に係るとりまとめを行いましたので、その内容を紹介します。
現在、「働き方改革」の推進が我が国の重要課題となっています。「働き方改革」には、長時間労働の是正、非正規雇用の処遇改善など多様な内容が含まれますが、なかでも生産性の向上や女性・高齢者等の労働参加率の向上等は、不動産のあり方と密接な関係があります。今日、不動産においても、人々の働く時間や場所の自由度を高め、生産性の向上に係る工夫やコミュニケーションを円滑化するための業務環境の改善を進めるなど、「働く場」としてそのあり方を見つめなおす時期に来ています。
また、少子・高齢化、人口減少社会の進展、AI(人工知能)・IoT等の技術革新の進展、自然災害の脅威など、日本の社会情勢が大きな変化を遂げている中、国民生活と経済活動を支える上で不可欠の基盤である不動産に求められる役割も変化しつつあります。
このため、働き方改革の進展を踏まえつつ、オリンピック・パラリンピック東京大会を2020年に控える中、社会情勢の変化に対応したその後の我が国の不動産市場の発展を確保していくためには、社会全体として、これからの日本社会のあるべき方向性を認識し、その実現を支える不動産の形成に努めていくことが重要です。
このような現状を踏まえ、「働き方改革を支える今後の不動産のあり方検討会」では、現実的な将来となる今から約10年先、2030年頃の日本社会が真に豊かさを実感できるようにするための不動産のあり方を検討すべく、昨年12月より7回にわたり、先駆的な取り組みを行っている民間企業からのヒアリング等を進め、今般、考え方をとりまとめました。
とりまとめでは、人々が働き、暮らす上で、時間的・場所的制約から解放され、活動し、休息する人間の1日24時間を充実させる『真に人に優しい不動産』を目指して、「オフィス」、「住まい」、「まち」それぞれが発展していくことを提言しています。
メールやテレビ会議システムをはじめとするインターネット等の情報技術の進展は、企業の生産活動を大きく効率化させるとともに、国民の生活利便性を飛躍的に向上させました。こうした環境変化は、不動産の供給側の視点でみれば、不動産の立地場所に係る制約が緩やかになってきたことを示しています。
一方で、不動産の需要側の視点でみれば、賃貸の活用など、不動産の所有意識に変化が見られる中、シェアオフィスやルームシェアなど、不動産に求める活用内容も多様化しつつあります。
加えて、都市のコンパクト化の進展を踏まえ、さまざまなサービスに容易にアクセスできる用途複合型の不動産・まちづくりに対する需要が高まっています。
このように、現在、我が国の不動産においては需要と供給をめぐる環境の変化が進行しつつあるため、不動産の需給両面の変化を的確に捉えて今後の不動産のあり方を考えていく必要があります。
とりまとめでは、次の7つの視点を重要な変化として取り上げました。
前述のような不動産をめぐる需給環境の変化や今後予想される社会情勢の変化を踏まえると、これからの時代にあっては、多様な働き方やライフスタイルを選択し、幸福感をもって仕事や生活ができるよう、新技術の活用等を図りながら、人々が働き、暮らす上での場所的・時間的制約を解放していくことが重要となります。
すなわち、これからは、生産性の向上とともに多様なワークスタイル、ライフスタイルを選択できる時代であり、日々活動し、休息する人間の1日24時間の充実を図っていくことが重要といえます。
これからの不動産は、前述の日本社会のあるべき方向性を踏まえ、そのあり方を考えていく必要があります。
例えば、現在、
など、不動産を核に多様なサービスを確保し、人々の多様な働き方を支援する取り組みが進められています。
これらの取り組みは、人々の「1日24時間の充実」を図るものであり、幸福感を高め、「well-being」の実現につながるものであります。
こうしたことを踏まえ、これからの不動産は、人々が幸福を感じる『真に人に優しい不動産』つまり、交通ネットワークや新技術を活かした快適性・利便性、健康性、省エネ性、安全性、等に満ちた、人々の活動、休息の「場」を目指すべきと考えられます。このような観点から、これからのあるべき「オフィス」、「住まい」、「まち」の具体的なイメージを整理すると、それぞれ次のように考えられます。
このような「オフィス」、「住まい」、「まち」を実現していくためには、不動産自体の質を高めるだけでなく、個々の不動産が有機的に結びつき、面として地域の価値(エリア価値)の向上に資するよう、不動産を「場」として多様なサービスが展開される必要があります。
不動産を「場」として多様なサービスが面的に展開されると、当該地域のエリア価値が高まり、結果として当該地域における不動産の価値の維持・向上にもつながることが期待されます。このことは、人口減少下にあっても地域の活力を維持し、コミュニティの形成を円滑にしていくための解決策の一つになり得ます。
こうしたことを踏まえ、今後の不動産政策は、不動産固有の価値とエリア価値を相乗的に発展させていくための社会づくりを目指していくべきであります。
このため、『真に人に優しい不動産』の普及・拡大に向け、行政は、オフィスや住まいの高機能化や多様なサービスに満ちたまちづくりの展開などが進むよう、公共空間の整備とともに、民間の建築やリノベーション等に一定のインセンティブを付与するなど、政策誘導的な措置の強化に努めるべきであります。また、不動産取引を支える情報基盤の充実を図ることが重要です。
同時に、国においては、自らが率先してこれからの不動産のあり方を体現していくことが、今後の不動産政策を推進する上でも極めて重要です。このため、他の国の機関や自治体のモデルとなるよう、国土交通省自らフリーアドレスの導入に取り組むなど、『真に人に優しい不動産』を目指し、率先して取り組みを進めていくことが重要です。検討会における議論を踏まえ、国土交通省不動産グループでは、省内で初めて、フリーアドレスの導入を行いました。まだ導入から間もないですが、「上司とのコミュニケーションが活発になった」、「書類が整理され打ち合わせスペースを設けることができた」といった声、効果が上がっています。
今後は、このとりまとめを受けて、「不動産業」の発展を計画的・戦略的に進めるため、「不動産業」のあり方に係る中長期的なビジョンの策定や、産学官連携による不動産政策の研究拠点の形成に取り組んでいく必要があると考えています。
※執筆の内容は、2018年7月末時点によるものです。