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住宅宿泊事業法の成立について いわゆる「民泊」の健全な普及を目的とした新しい法律の成立について

2017年8月09日

Report
国土交通省 土地・建設産業局 不動産業課
 

いわゆる「民泊」の健全な普及を目的とした住宅宿泊事業法が成立し、平成29年6月16日に公布されました。今回は、同法の制定の背景及び概要について解説します。

住宅宿泊事業法制定の背景

住宅(戸建住宅、共同住宅等)の全部又は一部を活用して宿泊サービスを提供する、いわゆる「民泊」については、空き室を短期で貸したい人と旅行者とをインターネットを通じてマッチングするビジネスが世界各国で展開されているところであり、我が国でも急速に普及しています。この民泊については、観光先進国の実現を図る上で、急増する訪日外国人旅行者の多様な宿泊ニーズや大都市における宿泊需給の逼迫状況への対応のために、その活用を図ることが求められています。

一方で、既存の旅館・ホテルと同様の公衆衛生の確保や、地域住民等とのトラブル防止に留意したルール作りはもとより、旅館業法の許可が必要な旅館業に該当するにもかかわらず、無許可で実施されているものもあることから、その是正を図ることも急務となっています。
このため、今回新たに「住宅宿泊事業法」を制定し、健全な民泊の普及を図ることとなりました。

法律の概要

本法では、民泊に関する3つの事業を定義し、それぞれの事業について届出制度又は登録制度を設けるとともに、各種義務を課すこととしています。今回は、事業ごとに法律の概要を説明します。

【住宅宿泊事業法案の概要】 図をクリックすると拡大表示されます
住宅宿泊事業法案の概要

(1)住宅宿泊事業

年間180日を超えない範囲で宿泊者に住宅を提供し人を宿泊させる事業を「住宅宿泊事業」とし(第2条第3項)、住宅宿泊事業を営む者は都道府県知事()に届け出なければならないこととしました(第3条第1項)。届出をした者は、旅館業の許可を得なくとも、年間180日の範囲で住宅に人を宿泊させることができることとなります。仮に届出をせずに住宅宿泊事業を営んだ場合は、この法律の適用の対象とならず、旅館業法の無許可営業として罰則を科されるおそれがあります。
)保健所設置市(政令市、中核市等)や特別区(東京23区)のうち希望する自治体は、都道府県に代わって、本法に基づく各種事務を行うことができます(第68条第1項)。

住宅宿泊事業を営む場合、家主が住宅に居ながら旅行者を宿泊させる「家主居住型」と、家主が不在の間に旅行者を宿泊させる「家主不在型」の大きく2つに分けることができます。それぞれの種類ごとに課される義務については、以下のとおりです。

(1-a)家主居住型

家主居住型の場合、公衆衛生の確保や地域住民等とのトラブル防止等については、住宅宿泊事業者が責任をもって行うことが必要です。具体的には、

  1. 宿泊者の衛生確保の措置(定期的な清掃等)(第5条)
  2. 宿泊者の安全確保の措置(非常用照明装置の設置等)(第6条)
  3. 外国語による施設利用方法の説明(第7条)
  4. 宿泊者名簿の備付け(第8条第1項)
  5. 騒音防止等、必要事項の宿泊者への説明(第9条)
  6. 周辺住民からの苦情等への対応(第10条)
  7. 標識の掲示(第13条)

といった措置を講ずることを義務付けています。
また、無登録で住宅宿泊仲介業を営む者を排除するため、宿泊契約の仲介を委託する場合には、旅行業法の登録を受けた旅行業者又は住宅宿泊仲介業者(後述)に委託することを義務付けているほか(第12条)、住宅を宿泊者に提供した年間提供日数を都道府県知事等に定期的に報告する義務(第14条)を課しています。

(1-b)家主不在型

家主不在型の場合は、家主居住型と異なり、不在となる住宅宿泊事業者によって公衆衛生の確保や地域住民等とのトラブル防止等が適切に行われることが期待できません。このため、住宅宿泊事業者に対し、住宅宿泊事業者に代わってこれらの措置を行う住宅宿泊管理業者(後述)に住宅の管理を委託することを義務付けています(第11条第1項柱書)。ただし、住宅宿泊事業を営む住宅の隣に住宅宿泊事業者が居住している場合や、不在となる時間が一時的である場合等には、住宅宿泊事業者による適切な管理が期待できるため、委託義務を課さないこととしています(第11条第1項ただし書等)。
住宅宿泊管理業者に住宅の管理を委託した場合には、家主居住型の場合に住宅宿泊事業者が負う義務(上記7.を除く)については住宅宿泊管理業者が負うこととなります(第11条第2項)。ただし、この場合であっても、宿泊者との契約は住宅宿泊事業者が締結するとともに、上記7.の標識掲示義務や、旅行業者等への仲介委託義務、都道府県知事等への定期報告義務についても、引き続き住宅宿泊事業者が負うため、注意が必要です。

(2)住宅宿泊管理業

(1-b)で述べたとおり、家主不在型の住宅宿泊事業を行う場合については、住宅宿泊事業者に代わって適切に住宅を管理する者が必要です。このため、住宅宿泊事業者から委託を受けて住宅の管理を行う者を「住宅宿泊管理業」とし(第2条第6項)、住宅宿泊管理業を営む者は国土交通大臣の登録を受けなければならないこととしました(第22条第1項)。

住宅宿泊管理業者は、既に述べたとおり家主居住型の場合に住宅宿泊事業者が負う義務(標識掲示義務等を除く)を代わって負うこととなります。他方で、住宅宿泊管理業は住宅という不動産を管理するサービスを家主である住宅宿泊事業者に対して提供するものであることから、不動産管理業に分類されるものであり、他の不動産管理業と同様に家主を適切に保護するための義務を住宅宿泊管理業者に課すこととしています。具体的には、

・信義誠実に業務を処理する原則(第29条)
・誇大広告等の禁止(第31条)
・不実告知等の禁止(第32条)
・管理受託契約の内容の説明(第33条)
・契約書面の交付(第34条)
・住宅宿泊事業者への定期報告(第40条)

等の義務を課しています。

このように住宅宿泊管理業者には様々な義務が課されており、周辺住民からの苦情や問合せへの迅速・適切な対応等が求められるほか、家主との間で適切に契約を締結することも重要です。このため、住宅宿泊管理業の登録の際に、住宅宿泊管理業を的確に遂行するために必要な体制が整備されているかどうか審査することとしています(第25条第1項第11号)。

(3)住宅宿泊仲介業

住宅宿泊事業において提供される宿泊サービスの代理・媒介等を行う者を「住宅宿泊仲介業」とし(第2条第9項)、住宅宿泊仲介業を営む者は観光庁長官の登録を受けなければならないこととしました(第46条第1項)。この登録は、日本に事務所等が所在しない海外の事業者であっても受ける必要があります。

住宅宿泊仲介業は宿泊サービスの仲介をするものであり、取引の相手方となる宿泊者や住宅宿泊事業者を適切に保護することが必要であることから、各種義務を住宅宿泊仲介業者に課すこととしています。具体的には、

・信義誠実に業務を処理する原則(第53条)
・住宅宿泊仲介業約款の届出及び掲示(第55条第1項)
・宿泊料金、仲介手数料の公示(第56条第1項)
・住宅宿泊仲介契約の内容説明及び書面交付(第59条第1項)
・不当な勧誘等の防止(第57条)

等の義務を課しています。

住宅宿泊事業法の施行は一年以内の政令で定める日となっており、今後、円滑な施行に向けて、地方公共団体との連携を図るとともに、政省令やガイドライン等の整備に取り組んで参ります。

※執筆の内容は、2017年7月末時点によるものです。

国土交通省


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