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インスペクションについて・既存住宅の流通を促進するためにはインスペクション(建物診断)の活用が重要課題に

2009年9月15日

Report
国土交通省 総合政策局 不動産業課
 

社会資本整備審議会不動産部会でも、その普及促進について議論がなされている「インスペクション」。今回は、不動産取引をされる消費者の方に知っていただきたいインスペクションについて、ご担当者にご執筆をお願いしました。

インスペクションとは

インスペクション[Inspection]とは、調査、検査、監査という意味です。

不動産取引におけるインスペクションとは、第三者の専門家が建物診断を実施することで物件の状態を客観的に検査・調査するものです。
検査の種類としては、目視による検査から専門の調査機器を使用したものまで、調査会社や依頼主の意向によって様々です。検査の依頼は買い主からの依頼によるものが多く、物件の瑕疵(かし)(※1)の状況を事前に確認することを目的として実施されています。
住宅検査を実施する民間会社としては、不動産流通業者の子会社、一級建築士事務所、登録住宅性能評価機関などがあります。また、建物検査(インスペクション)をする専門家のことをインスペクターといい、主に建築現場や設備に詳しい人、建築士などの専門家がかかわっています。
インスペクションは、あくまで不動産売買を目的として行われるものではありませんが、一般的には検査の実施時期は売買契約前や売買契約後など個別の取引によって異なっています。

以上のように、現時点では、インスペクションは業界で統一的な内容となっておらず、業者ごとにサービスの内容がまちまちであるのが現状です。

※1
瑕疵(かし)とは、雨漏りや建物本体の白アリ被害のような物件の欠陥などをいいます。

調査項目例

検査部位等検査対象内容
地盤、基礎、壁、柱のうち屋外に面する部分
  • ひび割れ、欠損、剥がれ
  • シーリング材の欠損、破断、硬化等による劣化
屋根
  • ひび割れ、欠損、ずれ、剥がれ、腐食
床下(土台・床組)
  • ひび割れ、欠損、腐食
  • 接合部(仕口)の不接合
  • 蟻害(木部)
小屋組
  • ひび割れ、欠損、腐食、雨漏り跡
  • 接合部(仕口)の不接合
  • 蟻害(木部)
壁、柱、梁のうち屋内に面する部分
  • ひび割れ、欠損、剥がれ、腐食、傾斜、雨漏り跡等
  • ひび割れ、欠損、剥がれ、沈み、きしみ、たわみ、腐食、傾斜
天井
  • ひび割れ、欠損、剥がれ、浮き、腐食、雨漏り跡
軒裏
  • ひび割れ、欠損、剥がれ、浮き、腐食、雨漏り跡
階段
  • 欠損、沈み、剥がれ、手すりのぐらつき等
建具(窓、ドア、シャッター)
  • 開閉不良
  • 建具の周囲、建具枠とガラス等との隙間
手すり
  • ぐらつき、腐食等による欠損
バルコニー
  • ひび割れ、欠損、床の沈み、腐食、さび、手すりのぐらつき
雨樋
  • 取付金具、接合部のはずれ、破損
設備等 給水設備・給湯設備
  • 漏水、赤水、吸水量の不足
排水設備
  • 漏水、排水の滞留
換気設備
  • 作動不良、ダクト接合部等の不具合
米国のホーム・インスペクション制度

米国の不動産取引では、売買契約書の付帯条項によって、買い主側は専門のインスペクターによるインスペクションを実施し、物件の状況を確認した上で最終的に購入手続きが完了することとされています。
具体的には、州民法やリアルター協会の標準書式によってインスペクションに関する権利義務関係、責任関係が明確に定められています。売り主は物件の状況に関して知りうる限りの情報開示が求められますが、一方で物件の物理的な状態を保証するものではありません。物件の検査は買い主の権利として買い主が実施することが強く勧められ、売り主はインスペクションを受け入れる義務を負い、インスペクターによる検査報告が買い主に渡された場合には、その報告の範囲で売り主は開示情報の誤りや不正確等に関し免責されることになります。また、検査の過程でも発見できなかった権利上、物理上の瑕疵については、保険や保証制度によりカバーするという考え方によっているため、瑕疵担保責任に関する条項はありません。
米国の不動産取引では、エージェント(媒介業者)が消費者に調査義務、重要事項説明義務を負うという制度ではない一方で、以上のような民事上の契約当事者間の権利義務関係の中にインスペクションが位置付けられています。

既存住宅流通促進とインスペクションについて

既存住宅の流通促進のためには、多くの買い主が抱いている品質に対する不安等、情報の非対称性を解消する取り組みが重要です。すなわち、新築、改修、修繕、点検等過去の履歴や現状に関する情報が所有者(=売り主)において整えられて保存され、取引の場面において、媒介業者の価格査定や買い主の判断材料として提供されることが有効となります。
具体的には、既存住宅の取引を進める上での物件情報の円滑な提供を進めるとともに、今回ご紹介した「インスペクション(建物検査)」や「告知書」(※2)の活用により、情報の非対称性を解消することが重要となります。

このインスペクション及び告知書の活用を促進していくためには、売り主・買い主・媒介業者それぞれのインセンティブ及びコストを負担する者の整理を行い、告知書及びインスペクションの活用を促進していくための市場のルール作りが必要と考えます。
これに加えて、既存住宅市場が活性化するためには、情報の受け手である買い主が受け取った情報を基に適切な判断を行うことができること、また、情報の移転と併せて取引関係者が負うリスクも移転すること、不安に思われている品質の向上を図るための仕組みを作ること、といった環境を整える必要があります。
これらを踏まえ、インスペクションについては、今後その普及に向けて、事業者間、業界内でのサービスの標準化や事業者や専門家の育成等により、業界における活用実績を増やすことが重要と考えています。また、既存住宅市場においてインスペクションの有用性の認識を高めていくことが必要です。

※2
「告知書」=「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(不動産業課長通達、いわゆる「ガイドライン」)において、物件の過去の修繕等の履歴や瑕疵など売り主や所有者しか分からない事項について、売り主等の協力が得られるときは売り主等に提出してもらうものとして位置付けられている。

 

※執筆の内容は、2009年8月時点によるものです。

国土交通省


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