トップ > 不動産トピックス > 不動産業者が受けることのできる媒介報酬額が改正!空家等の売買および長期の空家等の賃貸
執筆:一般社団法人不動産流通プロフェッショナル協会(FRP)政策委員 水戸部 秀昭
2024
8.28
我が国の空き家件数は年々増加しており、今後も増加が見込まれている。全国の空き家数は、900万戸と過去最多(総務省2023年速報値)で、総住宅数6,502万戸の13.8%を占めている。
空き家が放置されると防災(倒壊、崩壊、屋根・外壁の落下や火災発生の恐れ)、防犯性(犯罪の誘発)、ごみの不法投棄、衛生の悪化(蚊、蠅、ネズミ等の発生・集中)、風景・景観の悪化等を引き起こすことが懸念され、空き家の解消は喫緊の課題となっている。
出所:政府広報オンライン「空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化。トラブルになる前に対応を!」
出所:国土交通省「空き家政策の現状と課題及び検討の方向性」2022年4月
国土交通省は、空き家等の流通促進のため、「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定(2024年6月)、官民を挙げての強力な空き家対策に取り組み始めた。同プログラムは、流通に適した空き家等の掘り起こしに加え、適切な管理、空き家活用・流通のビジネス化支援を官民連携により推し進めるものである。
■ 不動産業による空き家対策推進プログラム
Ⅰ 流通に適した空き家等の掘り起こし | Ⅱ 空き家流通のビジネス化支援 |
---|---|
① 所有者への相談体制の強化 ② 不動産業における空き家対策の担い手育成 ③ 地方公共団体との連携による不動産業の活動拡大 ④ 官民一体となった情報発信の強化 |
① 空き家等に係る媒介報酬規制の見直し ② 「空き家管理受託のガイドライン」の策定・普及 ③ 媒介業務に含まれないコンサルティング業務の促進 ④ 不動産DXにより業務を効率化し、担い手を確保 |
空き家対策推進プログラムの一つとして、空き家等の売買の媒介報酬規制が見直しされた。不動産業者の売買の媒介報酬額は、国土交通省の報酬告示で規制されているが、「低廉な空家等の売買又は交換の媒介特例」として、従来、本則にかかわらず、物件価額400万円以下の場合、一律上限19万8千円(消費税額含む上限額。以下同様)まで受領が可能であった。本年7月1日施行の改正により、同特例の対象となる物件の価額を800万円以下に拡大、報酬額の上限は33万円に引き上げられた。
さらに、特例の対象は売主のみに限られていたが、改正により買主からの受領もできるようになった。
■ 売買の媒介に関する報酬の額(消費税額含む上限額)
本 則 | 低廉な空家等の特例 |
---|---|
200万円以下の金額 5.5% 200万円を超え400万円以下の金額 4.4% 400万円を超える金額 3.3% |
800万円以下 33万円 (従来)400万円以下 19万8千円 |
注)買主からも受領できる(従来は売主からのみ) |
※800万円を超える物件の取引は、従来通り「(物件価格×3%+6万円)+消費税」(速算式)が上限
低廉な物件の売買の媒介で受けることのできる本則の報酬額では、不動産業者の採算が合いにくく、その取り扱いを敬遠していた感があった。今回、当該媒介のビジネス化支援として、特例の対象物件の拡大と報酬額の拡充が行われたことにより、不動産市場における低廉物件取引の活性化が期待できる。
この特例の対象物件は、800万円以下の宅地または建物で、使用の状況は問わない。
不動産業者が特例による報酬を受ける際、不動産業者は、依頼者(売主、買主)に説明し、合意を得る必要がある。具体的には、媒介契約書に特例を活用する旨を記載する等の措置が考えられ、依頼者に説明することが不可欠である。
出所:国土交通省「不動産業による空き家対策推進プログラム」2024年6月
賃貸借の媒介を対象にした「長期の空家等の媒介特例」が創設された。媒介業者が受け取ることのできる報酬額の本則は、貸主と借主の合計額で上限1か月分の借賃の1.1倍(消費税含む上限額。以下同様。)であり、一方から受け取ることのできる報酬額は、居住用物件の場合、借賃の0.55倍(承諾を得ている場合を除く)である。
新たな特例の報酬額は、貸主、借主合計で1か月分の借賃の2.2倍までとされた。
■ 賃貸の媒介に関する報酬の額(消費税額含む上限額)
本 則 | 低廉な空家等の特例 |
---|---|
双方からの合計額の上限 借賃1か月分の1.1倍(一取引における上限額) |
双方からの合計額の上限 借賃1か月分の2.2倍(一取引における上限額) |
依頼者の一方からの額の上限 居住用は、依頼者の承諾を得ている場合を除き、0.55倍。承諾がある場合は1.1倍 |
借主からの額の上限 居住用で、借主からの承諾を得ている場合を除き、0.55倍。承諾がある場合は1.1倍 |
- | 注)上乗せできるのは貸主のみ |
上乗せできるのは、貸主からの報酬のみである。たとえば、借主から合意を得て1.1倍受領したとすると、貸主からも最大1.1倍受領できる。借主から0.55倍受領した場合、貸主から最大1.65倍の受領が可能である。
■ 宅建業者が特例で受領できる賃貸の媒介における具体の報酬額例(税込)
貸主 | 借主 | |
---|---|---|
① | 2.2倍 | - |
② | 1.65倍 | 0.55倍 |
③ | 1.1倍 | 1.1倍 |
④ | 0.55倍 | 1.1倍 |
⑤ | - | 1.1倍 |
一取引で受領できる上限額は1か月分の借賃の2.2倍だが、借主から受領できる額は、承諾を得ている場合に1.1倍、それ以外の場合は0.55倍が上限額。
借主から受領しないときは、貸主から最大2.2倍の受領が可能(グラフ①)だが、貸主から受領しないときの借主から受領できる上限額は承諾を得ている場合に1.1倍(グラフ⑤)、それ以外の場合は0.55倍。
特例の適用対象となるのは、“長期の空家等”であり、(1)「現に長期間にわたって居住の用、事業の用等に供されていない」または(2)「将来にわたり居住の用、事業の用等に供される見込みがない」物件が対象である。(1)の「長期間」は1年超の期間居住者が不在となっている戸建の空き家や分譲マンションの空き室が該当し、(2)は、相続等により利用されなくなった直後の戸建の空き家や分譲マンションの空き室で、今後も所有者等による利用が見込まれないものなどが特例の対象である(宅建業法の解釈・運用の考え方)。
なお、入居者を募集中の賃貸集合住宅の空き室は、事業の用に供されているものとして、長期の空家等に該当しないので留意が必要である。
特例による報酬を受ける際、不動産業者は、貸主に説明し、合意を得る必要があるのは売買の媒介の特例を活用するのと同様である。貸主の報酬を上乗せするときは、賃貸依頼書または媒介契約書等の文書に特例を活用する旨を記載し、説明する必要がある。
これまで市場に出づらかった低廉な価格の物件取引が促進され、また、空き家の有効活用が活発化することは、地域社会や経済の活性化につながることが見込まれる。
不動産は所在・立地や規模、建物の築年数や間取り、現況などその状況は個々により異なるものである。不動産業者は、売買、賃貸の媒介に限らず、個別の空き家活用の課題整理や活用策の助言、提案が可能である。媒介業務に含まれない「コンサルティング業務」から売買または賃貸までの一体支援や管理受託なども不動産業者に期待される業務の一つであり、不動産業者が空家対策の担い手となる期待が高まっている。
新型コロナ感染症の蔓延以降、地方移住や二地域居住によるリモートワーク等のライフスタイルの変化や多様化の拡がりをみせ、これまで必ずしも需要が高かったとはいえない地方の低廉物件の居住ニーズが高まりつつあり、利活用に適した比較的築年数の浅い空き家が注目を浴びることが考えられる。
空き家の所有者、空き家を相続した方や相続する予定の方は、空き家の管理、売却・賃貸、利活用や空き家を取り壊した後の土地の有効活用、また、個々人が抱える課題の整理や相談を不動産業者に依頼されることをお勧めする。
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