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VOL.90

子育て支援型共同住宅推進事業

子どもの安全と子育てしやすい住環境づくりを支援する制度

執筆住宅ジャーナリスト 殿木真美子

2026

7.15

 家事や育児に追われる毎日の中で、住環境に対する不安やストレスを抱えている子育て世帯は少なくありません。一瞬の不注意によるハラハラや、一人で育児を抱え込む孤独。それは、多くの親が直面する切実な悩みです。そんな中、共同住宅の安全設備や交流スペースの整備に対して国が補助をする「子育て支援型共同住宅推進事業」という制度の活用が広がっています。一般的なマンションと何が違うのか、私たちの暮らしにどう役立つのか、知っておきたい概要とメリットをやさしく紐解きます。

出所:国土交通省ホームページ

暮らしの中の「ヒヤリ」や「ストレス」を軽減

 小さな子どもとの暮らしの中で、住まいに関する悩みや不安を感じる瞬間がありませんか?
 「子どもがベランダの柵に登ろうとしていてヒヤッとした」、「家の周りに子どもを遊ばせるスペースがない」。そんな、住まいのなかでの「ヒヤリ」とする瞬間や、家事・育児を一人で抱え込むストレスを、住宅のハード面から解決するため、国が用意した非常に心強い補助金制度があります。
 それが、国土交通省が推進する「子育て支援型共同住宅推進事業」。「子育て支援型共同住宅」とは、子どもの安全確保や保護者の子育て負担の軽減に配慮した共同住宅のこと。この制度は単なるリフォーム補助ではなく、子どもの安全確保や親の孤立防止を目的に、子育て世帯向けの住まいづくりを支援するものです。

対面形式のキッチンは家事をしながら子どもを見守ることができる

なぜ今、国がここまで応援するのか?

 国がこの事業に注力する背景には、深刻な社会問題があります。一つは、後を絶たない窓やベランダからの子どもの転落事故です。令和7年に消費者庁消費者安全調査委員会は、住宅の窓及びベランダからの子どもの転落事故について、ハード・ソフト両面での対策強化が必要とする報告書(図1)を公表し、対策の普及が急務とされました。また、近年の核家族化に伴うワンオペ育児や、それに起因する親の社会的孤立も、解決すべき大きな課題となっています。こうした悲しい事故を未然に防ぎ、親の負担を減らしつつ孤立させない住まいを増やすため、国土交通省が予算を投じている制度が、子育て支援型共同住宅推進事業です。子どもと親が安心して暮らせる住環境づくりを支援しています。

「建設型」と「改修型」の違いと、宅配ボックス設置への補助

 本制度には、新築向けの「建設型」、リフォーム向けの「改修型」、そして「宅配ボックス設置」の3つのタイプがあります。
 建設型なら「最大125万円/戸+625万円/棟」、改修型なら「工事費の3分の1(最大120万円/戸)」といった非常に手厚い補助が用意されており、安全で快適な住まいづくりを強力に後押ししてくれます。
 注目すべきは、一棟丸ごとの大家さんだけでなく、分譲マンションの1室を持つ個人の方や、中古マンションを購入後リフォームして住む予定の方も対象になるという間口の広さです。まずは、ご自身の状況に合わせてどのタイプが活用できそうか、以下の比較一覧表で確認してみましょう。

表1 子育て支援型共同住宅推進事業 比較一覧表

建設型 改修型 宅配ボックス設置
対象住宅 新築の賃貸住宅(共同住宅・長屋) 賃貸住宅、分譲マンション 既存の共同住宅(新築は対象外)
対象世帯 小学生以下の子を養育する世帯 小学生以下の子を養育する世帯 子育て世帯(18歳未満)
必須要件 安全確保19項目すべて + 交流施設 の整備 転落防止の手すり等 の設置(整備済なら不要) 子育て世帯の入居率が3割以上 かつ全戸で転落防止対策済み
補助率 補助対象事業費の 1/10 補助対象事業費の 1/3 (工事費 × 1/3)× 子育て世帯入居率
補助上限額 安全設備:125万円/戸
交流施設:625万円/棟
安全設備:120万円/戸
交流施設:600万円/棟
1棟あたり 最大50万円
将来の制限 10年間は子育て世帯を優先募集 10年間は譲渡先・入居者を子育て世帯に限定 特になし

全タイプ共通の基本要件
床面積:住戸部分の床面積(平均)が40㎡以上であること。
耐震性:建物が新耐震基準に適合していること。
事前相談:申請に先立ち、事務局による事前審査(事前相談)をクリア していること。
着工時期:原則として令和8年度内(令和9年3月31日まで)に工事に着手 するもの。
 ※宅配ボックスについては、工事着手期限:令和9年1月31日。
交付決定前に工事着手していないこと。

「建設型」新築物件に求められる子育て性能とは

 新築向けの「建設型」では、建物全体が最初から子育て世帯向けにつくられます。最大のポイントは、19項目の安全設備と交流施設の両輪を備えることが必須である点です。
 専有部では、料理中もリビングで遊ぶ子どもに目が届く対面キッチンや、ドアの指挟み防止、窓の転落防止対策などが標準装備。日々の「ヒヤリ」を住宅がハード面で未然に防いでくれる設計は、親の心のゆとりを生みます。
 さらに魅力的なのが共用部です。雨の日でも親子で過ごせるキッズルームや、親同士が世間話で息抜きできる交流ベンチなどが整備されます。こうしたコミュニティ空間は、ワンオペ育児の孤独を防ぐだけでなく、「ここなら安心して子育てできる」と入居者に感じてもらえる付加価値となるでしょう。

表2 子どもの安全確保に資する設備

1. 住宅内での事故防止(12項目)
① 造りつけ家具の出隅等の衝突事故防止工事
② ドアストッパー又はドアクローザーの設置
③ 転倒による事故防止工事
④ 人感センサー付玄関照明設置
⑤ 足元灯等の設置
⑥ 転落防止の手すり等の設置(改修型ではこの項目のみ実施が必須)
⑦ ドアや扉へ指詰め防止工事
⑧ 子どもの進入や閉じ込み防止のための鍵の設置
⑨ チャイルドフェンス等の設置
⑩ シャッター付コンセント等の設置
⑪ 火傷防止用カバー付き水栓、サーモスタット式水栓等の設置
⑫ チャイルドロックや立消え防止等の安全装置付調理器の設置

2. 子どもの様子の見守り(2項目)
⑬ 対面形式のキッチンの設置
⑭ 子供を見守れる間取りへの工事

3. 不審者の侵入防止(3項目)
⑮ 防犯性の高い玄関ドア等の設置
⑯ 防犯フィルム、防犯ガラス、面格子等の設置
⑰ 防犯カメラ設置

4. 災害への備え(2項目)
⑱ 家具の転倒防止措置のための下地処理工事
⑲ 避難動線確保工事

※新築(建設型)①~⑲の全ての実施が必須。
※改修型の場合、⑥の「転落防止の手すり等の設置」のみが必須(整備済みの場合は不要)で、それ以外は任意で組み合わせて補助を受けることが可能。

「改修型」分譲マンションの個人所有者も使える!

 新築物件だけでなく、今住んでいる分譲マンションの1室をリフォームする場合でも、要件を満たせば「改修型」として補助金を受けることが可能です。この制度は大家さんだけでなく、ご自身が所有して住んでいる個人の区分所有者も対象となるため、多くの子育て世帯にとってとても身近で使い勝手の良い選択肢といえます。
 具体的なメニューとしては、窓の高い位置への補助錠の設置や、指詰め防止ドアへの交換、クッション性の高い床への変更など、お部屋の中だけで完結するプチ改修でも活用できるのが大きな魅力です。部分的な改修でも十分に育児負担の軽減が期待できます。
 ただし注意したいのが、窓やバルコニーなどはマンションの共用部に該当する場合があること。こうした箇所の改修には、あらかじめ管理組合の許可が必要となるため、まずは管理規約を確認した上で、登録事業者であるリフォーム業者へ相談するのがスムーズです。
 また、この補助金を受けた部屋は受給から10年間、売却先が子育て世帯に限定されるというルールがある点にも注意。将来の住替え予定なども踏まえて、計画的に活用したいですね。

「宅配ボックス」も補助の対象

 宅配ボックスも本事業の補助対象です。子どもの寝かしつけ中や手が離せない場面でも、非対面で荷物を受け取れるため、再配達の手間やストレスの軽減につながります。
 子育て世帯の入居率が3割以上などの条件を満たせば、1棟あたり最大50万円の補助が受けられます。安全対策とあわせて活用しやすい補助メニューといえるでしょう。

「契約・申請・着工」の特殊な順番に注意

 補助金受給で最も重要なのは、手続きの順番です。一般的な制度とは異なる特殊なルールがあり、順序を間違えると1円も受け取れなくなります。
・「契約」の後に「申請」を始める: 通常は採択後に契約ですが、本事業は「請負契約を締結した後に事前相談を申し込む」という逆の手順です。工事の意思が確定した状態での申請が求められるためです。
・「交付決定」が出るまで「着工」は厳禁: 実際の工事は、事務局の審査を経て「交付決定通知」を受けてから。審査には平均2〜3か月を要するため、この期間を工期に組み込んだ余裕ある計画が不可欠です。
 「順番が不安」という方は、制度を熟知した施工業者等に相談しましょう。専門知識が必要なため、事務局も業者経由での相談を推奨しています。

自治体の支援

 各自治体にも、様々な制度があります。例えば、一般居住者向けの制度として、東京都の「子育て世帯向け補助事業」や、板橋区の「板橋区子育て世帯住宅リフォーム支援事業」など、手すりの設置や段差解消といった子どもの安全配慮に関するリフォーム工事を行う人に対して、工事費用の一部を助成する制度を設けている自治体があります。
 また、事業者向けの制度として、東京都は「東京こどもすくすく住宅認定制度」を設けており、安全性や家事効率に応じて新築型で最大200万円、改修型で最大260万円の整備費を補助しています(いずれも認定モデルなどの条件による)。横浜市の「子育て応援賃貸住宅整備費等補助事業」では、地域開放型の共用部整備に最大500万円を上乗せしています。

 子どもの転落事故防止や育児負担の軽減は、多くの子育て世帯に共通する課題です。筆者がマンションの5階に住んでいた子育て中は、「子ども部屋の窓を乗り越えてしまったらどうしよう」とよくヒヤヒヤしていました。今では、国や自治体が住環境の整備を後押しする制度も整ってきています。こうした制度の活用により、安全性や子育てのしやすさに配慮した住宅が広がり、子育て世帯が安心して暮らせる住環境づくりが一層進むことが期待されます。

◆記事内イラストはすべて「消費者庁イラスト集」より

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