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VOL.86
LPガス契約の『商慣行』
執筆住宅ジャーナリスト 殿木真美子
2026
3.18
LPガスは、災害に強いなどのメリットがある半面、長年続いてきた“建築時に設備などを無償で提供する代わりにガス供給契約を得る”という商慣行が近年問題になっています。この課題に対して、経済産業省による省令の改正や、直近に判決が出たLPガスに係る最高裁の内容などを踏まえて解説していきましょう。
昨年(2025年)12月、LPガスに関する訴訟で、注目すべき判決が出ました。
LPガス事業者が、戸建住宅に配管などのLPガス設備を設置し、住宅購入者と「10年以内に解約したら利用者が設備費用を負担する」という条項が盛り込まれた契約を締結。利用者が10年を待たずに契約を解除したために、設備費の支払いを求めてガス事業者が起こした訴訟です。
結果として、最高裁はこの条項を違法な違約金にあたるものとして「無効」の判決を言い渡し、ガス事業者の敗訴が確定。長年『商慣行』として見過ごされてきたLPガス契約の適法性について、最高裁が明確な判断を示した初の判例となりました。この判決は戸建住宅における貸付配管をめぐるものでしたが、背景にはLPガス業界で長年続いてきた「設備提供と契約を結びつける商慣行」があります。こうした慣行は賃貸住宅でも広く見られ、近年、制度見直しの対象となってきました。
この問題は一部の特殊な契約にとどまるものではありません。LPガスは全国で広く利用されている生活インフラだからです。
家庭で使われるガスには、大きく分けて都市ガスとLPガスがあります。LPガスは、CO2排出量が少なく環境にやさしい、持ち運びが容易で災害時の復旧が早いなどの利点があります。販売する事業者は全国で15,181者(2024年12月末時点:経済産業省)存在し、都道府県別の普及率は全国平均で36%、30以上の県で使用世帯数が5割を超えるなど、全国的に多くの家庭で使用されています。
このように、一般的に普及しているLPガスですが、冒頭でも述べたとおり長年続いてきたとある『商慣行』が問題になっているのです。
よく言われているのは、LPガス事業者が賃貸住宅オーナーに対してガス給湯器やガスコンロなどの設備を無償で提供する代わりに契約を締結する「無償貸与」と呼ばれるもの。提供される設備の中にはガスとは関係のないエアコン、テレビ、Wi-Fiルータ、防犯カメラなどもあるといいます。
もともとは、賃貸住宅へのガス供給契約獲得のための営業や、賃貸集合住宅のオーナーからの要求によって無償提供したことが始まりといわれていますが、問題は、設備にかかった費用をLPガス料金に上乗せする形で入居者から徴収している点にあります。
この方法では、当該物件のガス料金は他社と比べて高くなるうえ、あとから料金を知っても他社と契約することができず、入居者には選択の機会が与えられないことになります。さらに、設備等を提供できない事業者は、オーナーから契約を結んでもらえず、それがひいては消費者の利益を毀損する可能性もあるのです。
また、戸建住宅の建築の際に、建設業者等が提携しているLPガス事業者に屋内配管工事をさせる、「貸付(または無償)配管」といわれるものも一部で行われていました。冒頭の訴訟も、この貸付配管に関するものでした。
最高裁の判決では、「無償配管の商慣行について見直しを促すとともに、料金の透明化が求められる」との判断も示されました。この判例が、賃貸住宅の契約にも影響を及ぼすとの見方もあります。
これらの商慣行に対する問題を受けて、経済産業省では「液化石油ガス法」の一部を改正する省令を2024年4月に公布。その主な内容は、以下の3つです。
上記の改正が施行されたことで、そもそも過度な設備等の利益供与が禁止されただけでなく、一般消費者には賃貸住宅への入居前にLPガス料金が提示されることになりました。昨年(2025年)4月からは三部料金制の徹底が施行されたことで、明細に設備料金が記載されているはずなので、すでに入居している人も一度明細を確認してみてください。
不動産事業者としては、過大な営業行為には応じないことや、当然ですが利益供与を求めないこと、もしそのような問題行為に接した場合は、「LPガス商慣行通報フォーム」(液化石油ガスの取引適正化に関する情報提供)に情報提供することなどが求められています。また、賃貸借契約の締結前にLPガス料金などの情報を入居希望者に対して適切に提供すること、また、不動産事業者がそれを知らない場合は「入居希望者が直接LPガス事業者に問い合わせることができる」旨を知らせることが望ましいとされています。
【参考】
国土交通省では、ホームページにおいて不動産事業者や建設業者に対する注意喚起を行っています。また、消費者庁や資源エネルギー庁のホームページには、一般消費者に向けた記事も掲載されています。詳しくは以下のリンクをご覧ください。
●LPガスの商慣行是正に向けた制度見直しについて(国土交通省)
筆者が暮らす横浜市ではLPガスよりも都市ガスが多く、もともとLPガスに関する知識が希薄でした。子どもが地方の大学に進学した際、賃貸住宅に入居した後にLPガスであることを知り、一人暮らしにしては料金が高いように思っていました。
以下の比較図は、実際に筆者のもとに届いた「三部料金制の徹底」の施行以前と以後のLPガスの使用量明細です。比べてみると、以後の明細では設備費として330円が計上されており、以前の明細ではその金額が基本料金に上乗せされていることがわかります。
そもそも、地下のガス導管を通じて供給される都市ガスは、敷設できるエリアが費用回収を見込める人口密度の高い都市部に限られるという特徴を持っています。配送可能な場所であればどこでも利用ができるLPガスは、都市部以外に住む人にとっては重要なインフラです。配送コストがガス料金に含まれているため、ガス代そのものがどうしても高くなってしまうのも、ある程度致し方ないものなのだ、と納得しました。
< LPガス明細 比較図 >
LPガス料金の明細。左が「三部料金制の徹底」の施行以前で、右が施行以後。