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VOL.83

犯罪収益移転防止法(犯収法)

国交省が厳守を通達。宅建業者や消費者に求められる対応とは

執筆HFオンウェイ合同会社代表社員 堀井達也

2025

12.17

 2025年10月2日、不動産業6団体による「連絡協議会」は、犯罪収益移転防止法(以下、犯収法)の取り組み強化に関する声明を発表した。これは同年6月27日に、国土交通省(以下、国交省)が同協議会の構成各団体に対して発出した事務連絡「犯罪収益移転防止法等の厳正なる遵守について」を踏まえたものだ。どういった背景から、この事務連絡は発出されたのか。また、宅建業者や消費者には、犯収法上どのような対応が求められているのか。国交省への取材とともにレポートする。

「マネロンリスクを理解していない」といった厳しい評価も

 犯収法は、マネー・ローンダリング(以下、マネロン)を防止し、犯罪組織への資金の移転を防ぐことを目的に制定された法律で、2008年から施行されている。同法では、宅建業者を「特定事業者」と位置づけており、宅地建物の売買などを行う際の義務が定められている。
 具体的には以下の4つであり、宅建業者には本人特定事項等の①「取引時確認」を行ったうえで、②「確認記録」と③「取引記録」を作成し、7年間保存することが義務化されている。また、④「疑わしい取引」だと判断した場合には、行政庁への届出も義務づけられている。これらの4つの義務を怠った場合は、行政処分の対象となる。こうした宅建業者が行わなければならない確認や届出等については、連絡協議会が国交省の協力を得て作成したハンドブック(図1)に詳細が掲載されている。
 こうしたマネロン対策は、犯収法を通じて日本が単独で行っているものではなく、世界の主要国が協力して進めている取り組みだ。2019年には、国際協調を目的に組織された政府間会合の「FATF」による「第4次対日相互審査」が行われたが、その審査結果で日本は「重点フォローアップ国」に分類されている。そこには「マネロンリスクを理解していない」といった厳しい評価もあり、そのうえ2028年に予定されている「第5次対日相互審査」では審査基準がさらに引き上げられることから、国全体でマネロン対策を強化している状況だ。国交省が発出した今回の事務連絡も、その一環として行われたものである。

図1 連絡協議会が作成したハンドブック

宅地建物取引業における 犯罪収益移転防止のためのハンドブック

「実態との乖離」を指摘される宅建業者の届出件数

 国交省が発出した事務連絡のなかで、「特に積極化すべきこと」として宅建業者に求められている取り組みが、「疑わしい取引の届出」である。この背景の1つには、宅建業者全体の「届出件数の少なさ」があるといえよう。
 警察庁が毎年まとめている「犯罪収益移転防止に関する年次報告書」によると、2024年における「疑わしい取引」の届出総数は84万9,861件にのぼり、業態別では銀行等が58万382件で最も多く、次いで貸金業者が8万8,282件などと続く。そのなかにおいて、宅建業者の届出件数はわずか25件にとどまっている(図2)。
 2025年度に入ってからは、その件数が第2四半期(7月~9月)だけで27件に増加していることから、先の事務連絡の効果が表れ始めているようにも見えるが、国交省・不動産業課不動産業指導室課長補佐の鈴木学氏は、「警察庁では、不動産取引を目的とした疑わしい取引の届出件数を、2024年度は1,000件以上=1,000億円以上と推計しており、宅建業者の届出件数は、実態と乖離しているのではないかという指摘はある」と語る。実際、同氏によると、不動産流通推進センターが運用する「不動産業反社会的勢力データベース」を見るだけでも、2024年度一年間の取引において、当該取引相手について「該当可能性あり」とする検索結果が、宅地建物の売買に関し500件以上も出ているという調査もある。
 「疑わしい取引の届出」に関しては、契約が成立した取引だけが対象ではなく、契約締結に至らなかったケースでも、疑わしい点などがあれば届け出が必要とされる。この認識の欠如も、低調な届出件数の一因とも考えられる。
 宅建業者には今後、積極的な届出が期待されている。一方、宅建業者と取引を行う消費者側も、犯収法が宅建業者に義務付ける本人確認行為等が法に則って行われていることを理解し、①本人特定事項(氏名、住居、生年月日)、②職業、③売買取引の目的、といった聞き取り行為に対し、協力していくことが求められる。

図2 疑わしい取引の届出状況

図2 疑わしい取引の届出状況
出所:警察庁「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(令和6年)」に基づき加工

立入検査に加え、書面審査も実施へ

  一般的に、マネロンの危険性が高いとされる「非対面」「現金」「外国取引」という特性をいずれも備えている不動産業は、マネロンに悪用される固有の危険性をはらんでいる。実際に2025年10月には、特殊詐欺で得た搾取金50億円の一部を日本の高級マンションの購入資金にあてた中国人グループが摘発される事件が発生している。
 国交省では、こうしたマネロンの阻止に向け、宅建業者が犯収法上の義務を履行できる体制を整備しているかどうかの確認作業を進めている。これまでも年間約1,000件の立入検査を行ってきたが、2026年度以降はこの立入検査に加え、「書面審査」を行う方針だという。同時に同省では、犯収法により作成が求められており、マネロン対策を適切に実践するうえで有用な「特定事業者作成書面(通称:リスク評価書)」をすべての宅建業者が作成できるように、2025年度中にその「ひな型」を用意するとしている。前出の鈴木氏は、「宅建業者のみなさんには、『疑わしい取引の届出』ができる体制をしっかり構築していただきたい。そのためにも、リスク評価書の作成が未着手であれば、今後用意する『ひな型』を参考に、早急に作成を進めてほしい」と呼び掛けている。

マネーロンダリングイメージイラスト

※不動産業6団体による「連絡協議会」:(公社)全国宅地建物取引業協会連合会、(公社)全日本不動産協会、(一社)不動産協会、(一社)不動産流通経営協会、(一社)全国住宅産業協会、(公財)不動産流通推進センターが設置しているもので、正式名称は「不動産業における犯罪収益移転防止及び反社会的勢力による被害防止のための連絡協議会」

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