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VOL.82

住まいの温熱環境

住む人の健康と住宅の資産価値を左右する

執筆住宅ジャーナリスト 殿木真美子

2025

11.19

 住宅の快適性や健康への影響に加え、いまや“資産価値”にも関わる重要な要素となっているのが「温熱環境」です。冬場のヒートショック現象に加え、近年では夏場の猛暑化による室内での熱中症の危険性も指摘されています。
 住まいの温熱環境とは具体的にどのようなものを指し、それを整えるには何が必要なのでしょうか。基本的な考え方を整理してみましょう。

健康と密接に関わる室内温度

世界保健機関(WHO)は2018年、「住まいと健康に関するガイドライン」において、寒さによる健康被害を防ぐため冬季の室温を18℃以上に保つことを強く勧告しました。
 これを受けて、日本でも2023年に「健康日本21(第三次)」が告示され、健康と住宅環境の連携が明確に打ち出されました。厚生労働省の「健康日本21アクション支援システム」では、“室温見直しチェックシート”付き健康づくり支援ツールを公開するなど、国としても温熱環境の改善を推進しています。

“室温見直しチェックシート”付き健康づくり支援ツール

“室温見直しチェックシート”付き健康づくり支援ツール​
出典:厚生労働省 健康日本21ア クション支援システムサイト

ヒートショックや熱中症――見過ごせないリスク

 温熱環境が健康に与える影響の代表例が「ヒートショック現象」です。室温の急激な変化によって血圧が上下し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こすことがあります。
 特に冬季(11〜2月)は入浴中の事故が多く【図1】、年間6,000人を超える死亡者が報告されています。これは交通事故死の2倍以上という衝撃的な数字です。

【図1】令和3年中「おぼれる」事故による高齢者の月別救急搬送人員(東京消防庁管内)

 また、夏場の熱中症も増加傾向にあり、住宅内での発症が全体の約4割を占めるという調査結果もあります。
 このような命に関わるケースに限らず、室温の低さが血圧上昇や睡眠の質の低下、夜間頻尿のリスクなどを高めることもわかっています。健康寿命をのばすうえでも、住まいの温熱環境を整えることは欠かせません。

日本の住宅の現状と課題

 現状として、日本の住宅の断熱性能は世界的に見ても高いとはいえません。
 新築住宅では省エネ基準が年々強化され、2025年4月からは「省エネ基準適合」が義務化されていますが、既存住宅、いわゆる住宅ストックでは約7割が昭和55年基準相当以下といわれています(図2:国土交通省資料より抜粋)。
 国土交通省の調査では、居間の平均室温が18℃未満の住宅が約6割、寝室や脱衣所では約9割にものぼるとのこと。多くの住まいが、WHOの推奨温度を満たしていないのが現実です。
 こうした状況を踏まえると、日本の温熱環境改善には「住宅ストックの断熱改修」をいかに進められるかが鍵になるといえます。

温熱環境を改善するための基本的な考え方

 ここで、住まいの温熱環境についての基本を見ておきましょう。住まいの温熱環境は「温度」「湿度」「気流」「放射」の主に4つの要素で構成されます。
 特に「放射(輻射)」は見落とされがちですが、壁・床・天井・窓といった建材の表面温度が室内の快適性を大きく左右します。冬場に窓際で冷気を感じるのは、隙間風だけでなく、冷えた窓ガラスが周囲の熱を奪う「冷輻射」が原因です。
 住宅の熱の出入りは、冬は約6割が窓から逃げ、夏は約7割が窓から侵入するといわれています。したがって、まず取り組みたいのは開口部の断熱改修です。

断熱性能を高めるリフォーム・リノベーション

 最も手軽で効果的な方法が「内窓(二重窓)」の設置です。既存の窓の内側に樹脂製サッシを取り付けることで、断熱性能が飛躍的に向上します。結露防止や防音効果もあり、コストパフォーマンスの高い改修といえるでしょう。
 さらに、外壁・屋根・床下などの断熱材の補強も有効です。特に木造住宅では、床下や屋根裏からの熱損失が大きく、断熱材の追加で体感温度が安定します。施工の際は、気密性もあわせて高めることがポイント。玄関ドアやサッシの隙間を防ぐだけでも、体感温度は驚くほど変わります。
 また、浴室や脱衣所などヒートショックが起こりやすい空間には、小型の壁掛け暖房機や床暖房を設置することで、局所的な温度差を軽減。実際に、断熱改修によって居間や脱衣所の室温が上昇することで、住宅内での活動時間が増加することも分かっています。

内窓(二重窓)イメージ

内窓(二重窓)は効果的な断熱リフォームの手段

助成制度を活用して賢く断熱化

 温熱環境の改善には一定のコストがかかりますが、国や自治体の補助制度を上手く活用することで負担を大幅に軽減できます。

2025年度現在、注目すべき制度は次の通りです。
住宅省エネ2025キャンペーン(国土交通省・経済産業省・環境省)
 ・先進的窓リノベ2025事業
 高性能窓への交換や内窓設置など、開口部の断熱改修に対して補助。
 対象工事に応じて、最大200万円/戸の補助が受けられます。
 ・子育てグリーン住宅支援事業
 断熱改修やエコ住宅設備の導入など、家庭の省エネ化を支援。
 既存住宅の改修でも対象となり、世帯条件により上限金額が異なります。

※事業ごとに申請期限があります。また、補助金申請額が予算上限に達し次第、交付申請の受付が終了となります。

住宅省エネ2025キャンペーンのサイトのトップ画面

住宅省エネ2025キャンペーンのサイトのトップ画面

その他、国や地方自治体の断熱リフォーム助成

 国土交通省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」などのほか、各地方自治体でも独自の補助金制度を実施しています。国の制度と併用できるケースもあるため、地域の情報をこまめに確認すると良いでしょう。
 こうした補助制度を活用することで、断熱リフォームはより身近な選択肢となります。不動産・建築業界としても、既存住宅ストックの価値を維持・向上させるための重要な取り組みといえます。

これからの住宅価値は「温度」で決まる?

 住宅の省エネ性能を評価する「断熱等性能等級」も2025年度からは等級7(最高等級)まで整備され、今後は温熱性能が「住まいの資産価値」を左右する時代に入るともいわれています。
 リフォーム・リノベーションの現場でも、見た目や間取りだけでなく、「住み心地=健康価値」を提案できるかが問われるようになるでしょう。住まいの温熱環境の向上は、居住者の健康と快適性を守るだけでなく、住宅の長寿命化や資産価値の維持にも直結します。
 既存住宅の断熱改修は、これからのストック活用時代における最重要テーマ。業界としても、助成制度を活用しながら、断熱改修を積極的に提案・推進していくことが求められています。

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