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VOL.79
住宅アフォーダビリティ
執筆佐々木城夛/オペレーショナルデザイン㈱ 取締役デザイナー・データアナリスト
2025
8.20
英和辞典でアフォーダビリティ(affordability)を引くと、「価格の手頃さ、値ごろ感、手頃な価格であること」などが記載されている。一方、いくつかの検索ポータルサイトにアフォーダビリティ(だけ)を入力し検索してみると、「住宅のアフォーダビリティ」に関する内容ばかりが上位に表示される。後者の事実より、日本でのアフォーダビリティは、住宅関連の用語として使用され定着しているということだろう。本稿では、「家計に占める住宅(費用)負担割合のうち適正な水準」として取り扱うこととしたい。

注1:住居費(=家賃・住宅購入費+住宅関係負担費)を可処分所得で除して算出。
注2:「都市再生機構等」は、「都市再生機構・公社等借家」を省略表記。
出典:総務省統計局「2019年全国家計構造調査 家計収支に関する結果」を筆者加工。
自身が居住するための住宅費用は、賃借と購入に大別される。双方のアフォーダビリティについて、相当数の学術論文や解説などがインターネット上でも確認可能だ。
[図表1]は、総務省の全国家計構造調査から、「家計に占める住宅(費用)負担割合」の実態をグラフにしたもの。調査対象年は、リーマンショック後から新型コロナの感染拡大前に該当し、古い順に信号色(青・黄色・赤)で表示している。
平均的な世帯では、家賃やローンなどの住宅費支出が生計費の3割以内が適正とされ、経験則上でも25~30%程度という皮膚感覚を持っていたと思われる中、このグラフを見ると調査数値はいずれもこれらを下回っていたことが分かる。
上昇傾向が続く不動産価格のなかでも、2020年以降の首都圏の分譲マンションの高騰が顕著だ。
賃金の上昇をはるかに上回る水準で高騰が続いており、そのため「首都圏の新築分譲マンション平均価格÷首都圏の勤労世帯平均年収」で算出される年収倍率は、2023年に10.1倍となった。この数値は、不動産バブル絶頂期の1990年の8.5倍を上回っており、「年収倍率が5倍超になると、住宅購入が困難になる」と言われる中、10倍を超える状況はかなり異常で、多くの人が「家を手に入れるのは難しい」と感じているのではないだろうか。
ローン利用者の大多数が借入期間35年を希望するのは、そのためだろう。住宅金融支援機構から、住宅ローンを利用した住宅購入者を対象に、利用したローンの中身や金利リスクに対する意識などを尋ねる「住宅ローン利用者調査」の結果が、半期毎に公表されている。6月27日に公表された直近の調査結果では、借入期間について2022年4月から2025年4月までの調査7回全てで「30年超~35年以内」の比率が最多を占める。金融実務者の皮膚感覚としても、ローン利用者の大多数が借入期間35年を希望する。
また興味深いのは、ペアローン等の利用動向だ。ペアローン・収入合算は若年層ほど利用し、20歳台では三分の二を超える[図表2]。有り体に言えば、若いうちに住宅を取得するような計画的な世帯であっても、「借りられる(=払える・返せる)だけ借りる」意向は変わらない模様だ。
注:各年代下の括弧内数値はペアローン・収入合算利用割合の合計値。
出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査<住宅ローン利用者調査(2025年4月調査)>」を筆者加工。
ローン提供側の金融機関も、利用者側の希望・意向に沿った動きを示している模様だ。
各業態を代表する7つの金融機関を抽出のうえ主要商品を比較したが、近時では、金額2億円・完済時年齢80歳まで対応する応諾状況が平均的なことが窺える[図表3]。業態の垣根を越えた獲得競争の中で、金額増加・期間長期化ニーズに応諾していることに他ならず、ペアローンなども、そうした要望に沿った対応だろう。
注:「金利」は変動金利型ローンにおける基準金利等。
出典:各金融機関ホームページ、実務者インタビューより筆者作成。
他方、住宅ローン審査時には、「年収に占める返済額」負担を注視する一方で、「返済開始後の割合がどう変化するか/アフォーダビリティの範囲内に収まるか」への考察は必ずしも十分でない。実態としては、保証期間の保証諾否に依存しているのが現状であり、リスク管理が十分と言えるのか大いに懸念される。
35年の返済期間が当り前の一方で、雇用期間を伸ばした事業者に占める退職後再雇用制度導入事業者や役職(ポスト)定年制度導入事業者の比率は高い。言い換えれば、賃金引下げを含む雇用期間延長の姿が平均的なため、支払余力が低下する。
共働き世代比率にも、2012年の57.3%が2022年に70.1%になるなど、なお上昇傾向が認められる。夫婦の合算収入を見込んだ返済負担率とした場合、単独名義に比べて進学費用や介護費用に代表される支払事象発生時の解決余力が元より乏しい。夫婦共に役職者に就いていた中でローンを借りた後、加齢によって両者が役職定年に達した場合なども、単独名義に比べて影響が大きくなる。別の視点では離婚に至る事象も珍しくない。
加えて、近時のインフレや金利上昇が追い打ちとなっている。筆者の親族は、2020年1月に地方銀行から変動金利型住宅ローンを年0.90%で借り入れたが、市場金利の変動に伴い、2025年1月に年1.05%、同年7月には1.30%に引き上げられた。5年半で0.40ポイントの上昇であり、直近半年(2025年1月→7月)だけでも、0.25ポイント上昇した。
不動産経済研究所が6月23日に公表した、5月の1都3県における新築分譲マンションの平均価格は9,396万円である。この金額を全額35年ローンで返済すると仮定し、先例のように0.40ポイントの金利上昇があった場合、その金利上昇分による返済負担だけで数百万円規模の増加となる。
「上昇分(だけ)」で数百万円も負担が増えるという事実には、金融実務者の目線では、直ちに延滞や支払不能を連想する。
近時、アフォーダビリティが注目される背景のひとつには、東京都が公表した「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」がある。この『アフォーダブル住宅』は価格水準の安さを意味しており、本稿で定義した「住宅のアフォーダビリティ」とは少し意味合いが異なる施策だ。東京都と「利益よりも社会貢献を重視する」インパクト投資家が各々100億円を出資し、都内の空き家を買い取って子育て世帯やひとり親世帯などに家賃相場の8割で貸すというスキームで、2026年の供給を目指している模様だ。
都内の空き家は90万戸に達している一方で、予算規模から予測される供給数が400戸であることから、市場に与える影響は限定的と見込む。他方、収益物件保有者からの民業圧迫との声のほか、公金を投じて東京の一極集中をさらに促進させる施策への反発もみられる。
金融機関は、住宅ローンだけでなく賃貸アパート・マンションローンも多数実行しているため、賃料低下によって債権が不良化しかねない今般の政策には否定的な見方も出てくるだろう。今後の本件に纏わる報道などにより、住宅のアフォーダビリティが側面的に注目される副次的な一面を見込む。