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VOL.75

フラット50

若年層の住宅購入に。超長期住宅ローン

執筆オペレーショナルデザイン(株) 取締役デザイナー・データアナリスト 佐々木城夛

2025

4.16

 昨今、住宅価格の高騰を背景に、超長期住宅ローンのニーズが高まっているようだ。住宅金融支援機構によると、返済期間最長50年の「フラット50」の融資対象住宅について、2025年10月以降の資金実行分から、現在の長期優良住宅に加えて、予備認定マンション、管理計画認定マンションの取得でも使えるよう制度改正が行われる。利用が想定されるターゲットや、一般に利用頻度が高い「フラット35」との違いを具体的な支払総額シミュレーションと併せて見ていきたい。

若年層の持ち家志向が上昇

 総務省が昨年(2024年)5月17日に公表した2023年の家計調査で、世帯主年齢29歳以下の2人以上世帯の持ち家率が、年間平均で35.2%となったことが一部のメディアで「過去最高」と報じられた。フラット50の利用条件は、申込時の年齢が満44歳未満(親子リレー返済を利用の場合は、満44歳以上でも申込み可)のため、[図表1]では2019年~2023年の趨勢を29歳以下と30歳台を共に追いかけてみた。図表内に点線で示した線形近似曲線を見ると①29歳以下は横ばい傾向(1.8ポイント↑)、②30歳台は上昇傾向(5.3ポイント↑)とある。直近の2022年から2023年においては、どちらも4.2~4.3ポイントの上昇がみられ、若年層の持ち家志向が強まっている様子が見られた。

図表1

出典:総務省「家計調査(2019~2023年)」を筆者加工。

 その一方で、所得はむしろ低下傾向にある。図表1と年齢階級・参照期間を合わせた世帯年収の趨勢を捉えてみたところ、㋐29歳以下には低下傾向、㋑30歳台には横這い傾向が認められた[図表2]。調査年の金額は前年の年収となるため、2021年の上昇は、新型コロナの感染拡大に伴う特別定額給付金が寄与したと思われる。近年の賃金の伸び悩みは、住宅購入のための原資にも影響していることだろう。

図表2

※注:2020年は実施せず。
出典:厚生労働省「国民生活基礎調査(2019~2023年)」を筆者加工。

フラット50への「再注目」理由

 上記に加え、円安に伴う輸入建材価格などの上昇や建設従事者人件費の上昇により、建物価格が上昇していることが、近時改めてフラット50に注目が集まっている背景と見込む。収入が伸び悩み、物件価格が上昇している中、持ち家を欲しいと希望した際には、価格を抑えるため条件などを譲歩するか、毎月の返済負担を抑えて期間を長期化するしかないためだ。
 2024年の29歳以下のフラット50の申請数は719件と、2023年の276件の2.61倍に及んだ。申請者は1990年代半ばから2010年代半ばに生まれたZ世代に該当し、仕事だけでなくプライベートを充実させることも重視しているため、住まいについても、こだわりの住宅を志向したことが見込まれる。今後も、若年層に一定のニーズが見込まれよう。

実際の負担の差異

 フラット50は超長期の住宅ローン商品ゆえ、住宅関係業者が住宅購入希望者に商品を紹介・勧奨した際に、実際の負担について尋ねられる機会が増えることが想像に難くない。このため、簡単なシミュレーション法を案内したい。必要な数値は、⒜借入(希望)金額、⒝借入(予定)期間、のため、尋ねられた際には、これらを照会されたい。
 昨年(2024年)7月に住宅金融支援機構から開示された「2023年度フラット35利用者調査」では、建売住宅の所要資金(≒購入金額)の全国平均が3,603万円であった。この金額を元に、2025年3月10日適用金利で、フラット35を35年借りた場合とフラット50を50年借りた場合の負担額をボーナス併用払いなしのタイプで試算した[図表3]。

表は横にスクロールできます。
「安心R住宅」制度の実施状況

 ごく簡単に言えば、50年借りた場合は35年借りた場合に比べ、利息を約614万円余分に支払うことを余儀なくされる。その一方で、毎月の支払負担は約24,000円軽減される。多いと見るか少ないと見るかには個人差があろう。
 フラット50の実際の利用時には、α)対象が長期優良住宅に限られる、β)物件価格の9割まで、などの制限がある。しかしながら、長期優良住宅の申請費用は25~26万円かつ建築費用の上昇分は平均で1割台であり、フラット20やフラット35との併用も可能なため、これらが普及の阻害要因にはならないと考える。
 逆に、利用中の他の住宅ローンからのみならず、フラット20やフラット35からの借換えにも応じている。また、10万円以上の一部繰上返済(内入れ)が借入金融機関のみならずインターネットからも手数料無料で行えるようにもなった。近時、一部または全額の繰上返済時に手数料を課す金融機関が増えてきている中では、使い勝手に競争力があると考える。
 普及のためには、むしろ取扱先の数が課題となろう。フラット35の取扱先が301先であるのに対し、フラット50はその約四分の一の79先に過ぎず、取り扱っている地方銀行は18行、信用金庫も38信用金庫に限られる。住宅取得者の7割超、大まかに言えば持ち家者の4人に3人が利用する住宅ローンの活性化につながる若年層向け商品として改めて注目できるため、今後、普及が進むことを期待する。

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