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VOL.74
リ・バース60
執筆オペレーショナルデザイン(株) 取締役デザイナー・データアナリスト 佐々木城夛
2025
3.19
リバースモーゲージは、所有する自宅を担保に資金を借り、借入人の死亡後に保証人や相続人がその債務を引き継ぐローンだ。収入は乏しいものの資産を持つ高齢者向けのローンとして、欧米で広範囲に利用されてきた。「リ・バース60」は、(独法)住宅金融支援機構の住宅融資保険を利用して民間金融機関が提供するリバースモーゲージ型住宅ローンで、“60”は「60歳から」を意味する。リスクを取りにくい高齢者向け融資について、機構の債務保証によって国内への普及を図るべく2016年に創設された。能登半島地震で老朽化した建物の倒壊が目立った中で、このローンを活用した耐震工事への利子補給制度が検討されている模様のため、ごく簡単に解説したい。
満60歳以上を対象とするリ・バース60では、かねてより、以下のa、b、cを全て満たす該当者を対象に、①部分的バリアフリー工事、②耐震改修工事、③ヒートショック対策工事を資金使途とし、毎月の利払いを利息分のみとする「高齢者向け返済特例」対応を実施してきた。
a | 申込者本人、申込者本人の配偶者等、ならびに申込者本人の(配偶者を除く)親族が所有する対象物件に入居中であること |
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b | 「(リ・バース60での借入金の年間返済額+他の借入金の年間返済額)÷借入人・収入合算者の金額」が、一定比率以下なこと |
c | 日本国籍または永住許可等を受けている外国人であること |
今般の制度改正では、このうち「②耐震改修工事」を対象に、70歳台以降の利息分の全額、70歳到達前の利息分の三分の二を公費助成することが予定されている模様だ。報道の初出は共同通信(2024年11月28日)で、2024年元日の能登半島地震で住宅倒壊が相次いだことに端を発することが政府関係者からのコメントとして紹介された。
筆者が住宅金融支援機構および国土交通省住宅局に取材したところ、関係者間による準備・調整の渦中であることが窺えた(2025年2月7日時点)。微細な実施内容、開始時期ならびに取扱金融機関等はまだ決まっていないため、流動的な面があると見込まれる。
特に注意すべき事項として、適用条件に「対象物件の所在地の自治体による補助」が含まれていることが目を引いた。国土交通省からは『自治体と両輪で運営する制度』という説明があったものの、自治体の補助がなければ使えないことに他ならず、自治体の補助状況は所管外なので分からないとも加えられた。それゆえに、住宅関係各社から顧客等への説明時には、先んじて該当自治体の補助の有無および内容を調査することが必須となろう。
加えて、金融機関側にとってはそれほど取組動機がもたらされない商品であることを改めて申し添える。昨今の金利上昇局面によって、仕入れコストの上昇を余儀なくされる民間金融機関にとっては一定の金利(利ざや)が取れて量(金額)も貸し出せる融資取引の確保が何より望まれる。それゆえに、老朽化してそれほど担保価値のない建物を含む時価の範囲でしか融資する余地のないリバースモーゲージの優先順位は、自ずと低くなる。
よって利用活性化のためには、住宅関連団体から金融業界団体等への働きかけなどが相応に求められる可能性もあろう。
リバースモーゲージは、フランスで、ローマ時代からあった慣習法を利用して約200年前に発展した“ビアジェ(Viager)”と呼ばれる独特の個人終身年金を起源としているといわれる。その後、イギリスで不動産担保金融としてのスキームが確立され、さらにアメリカで政府の金融的保証に支えられて、市場を拡大させてきた。
日本では、1981年に東京都武蔵野市福祉公社で福祉制度の公的プランとして最初に導入された。それに他の自治体や民間が続いたものの、バブル経済期を挟んだ不動産価格の乱高下によって担保割れなどが数多く発生したことから、それほど広く普及しなかった。
その後、超高齢社会の到来を始めとする多くの社会的・経済的要請から改めて普及が求められるようになり、2002年度に厚生労働省が全国規模でリバースモーゲージ導入を発表した。2003年度以降は、同省が貸付原資の三分の二を補助する形で、全国都道府県が「長期生活支援資金貸付(リバースモーゲージ)制度」を導入・活用している。
① 用途未定空き家
② 賃貸・売却用及び二次的住宅(別荘等)の空き家
③ 空き家以外の住宅
※注:各年横の括弧内数値は総住宅数
出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」を筆者加工
高度成長期以降の「子供は独立してマイホームを建てて一人前」という社会通念の普及に伴って、住宅数は増え続けたものの、人口減少社会の到来により、空き家率も上昇し続けている。中でも、「店子の入っていない賃貸住宅」「売却待ちの住宅」「別荘」を除く空き家の伸張が深刻だ。本稿ではこの空き家を“用途未定空き家”と呼ぶが、2023年の2018年比“用途未定空き家”の伸び率は、10.32%と、住宅総数の4.18%を大きく上回る(図表1)。
※注1:用途未定空き家率は、図表1の①が住宅総数に占める割合
注2:空き家率は、空き家(図表1の①+②)が住宅総数に占める割合
注3:各年の人口は10月1日現在
出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」および「人口推計」を筆者加工
リ・バース60の利用対象年齢は60歳以上のため、あまり一般的ではない60歳以上の人口比率を試算し、2003年以降の用途未定空き家および空き家(総数)の占有率の動きと対比してみた(図表2)。図表1と用途未定空き家の色を揃えてみたが、一覧して明らかなように、3数全ての動きが類似しているため、一定の相関が認められると考える。
韓国では、1997年のアジア通貨危機時に国際通貨基金(IMF)に緊急融資を申請し、金融システムが麻痺して経済が混乱した。そうした痛みを伴った混乱が収束した後の2007年に、政府の全面的保証を受けてリバースモーゲージが導入され、その後順調に拡大している。
日本でも利子補給制度を活用すれば、居住中に利息返済負担なしで使いにくい仕様や設備などをリフォームでき、その結果、相続後の物件売却も円滑化する可能性がある。また、制度を活用したリフォームを前提に、中古住宅市場が活性化する可能性もある。いずれにしても市場にとって朗報ゆえ、導入の早期化が望まれる。