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VOL.70
住宅のメンテナンスコスト
執筆住まい・まちづくり研究家 桑島良紀(明海大不動産学研究科博士後期課程)
2024
11.20
住宅は、人生で最も高額な買い物の一つと言えるだろう。住宅価格の高騰が続く中、住宅の資産価値を維持することへの関心が高まっている。快適な暮らしと資産価値を維持するためには、適切なメンテナンスが不可欠である。住宅のどの部分に、いつ、どれくらいのメンテナンスコストがかかるのかを事前に把握しておくことは、安心できる住まい選びに繋がる。
住宅のメンテナンスコストとは、毎年かかる固定資産税などの税金以外で、住まいに住み続けていることで必要となる費用のこと。国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査 令和5年度第4四半期受注分」によると、住宅のメンテナンス工事で最も受注件数が多いのが「劣化や壊れた部位の更新・修繕」で、143万6021件に及ぶ。メンテナンスの対象となるのは、屋根や外壁などの「外装」部分と、キッチンやバスなどの水回りに代表される「内装」部分の大きく2つに分けられる。メンテナンスの大まかなイメージとして、「外装」部分は長期間のサイクルでまとまった費用が必要、「内装」部分は10年程度でそこそこの費用が必要ということになる。当然、「外装」と「内装」を同時に工事するケースも珍しいことではない。
まずは、戸建て住宅と分譲マンションで共通点が多い「内装」部分からみていこう。
「内装」部分の代表的なものは水回りで、キッチン、バス、洗面、トイレが相当する。これを「水回り4点セット」と呼ぶこともある。「水回り4点セット」はおおむね15〜20年で寿命を迎えることが多いため、早ければ10年程度で工事を検討することになる。4点セットで工事を行うと、機器のグレードなどによっても異なるが約200万円程度が予算の目処となる。4点の工事を別々に行う場合でも1点に付き50万〜150万円程度の予算が必要だろう。トータルのリフォーム費用は、水回りだけではないため、平均するともう少し多くかかると見積もったほうがいい。次いで、給湯器、エアコンといった10年程度で寿命を迎える住宅設備機器が主なメンテナンスコストに含まれてくる。給湯器やエアコンは水回りよりも交換の頻度は高い。本体と工事費を含めてエアコンであれば1台10数万円程度、給湯器で10万〜30万程度を見込んでおけばいいだろう。
水回りは15~20年で寿命を迎える
次に「外装」部分についてみていきたい。分譲マンションの場合、「外装」部分は共用部となる。具体的には外壁や共用の給排水管、エレベーターなどの設備が対象になり、当然費用も大きくなるため、修繕積立金という形で入居後から定期的に積み立てることになる。メンテナンスの意思決定も基本的に管理組合で行うので、入居者が自分ひとりで対応できるものではない。したがって分譲マンションにおいて個人で負担するメンテナンスコストは、主に修繕積立金ということになる。なお、修繕積立金が足りなければ、追加の負担が必要になるケースもあるが、追加の金額は各マンションの状況によって異なる。こうした追加コストがかかることを見越して、修繕積立金のほかにもある程度の資金を準備しておいた方がいいだろう。
一方、戸建て住宅の「外装」は、外壁の再塗装や屋根の張り替えなどになるが、分譲マンションの修繕積立金のような仕組みはなく、自分自身で計画的にメンテナンス資金を用意しなくてはならない。また、戸建て住宅の場合は、いつ、どの程度の工事が必要になるのかを定期的に検査して必要な工事を行う必要がある。それを個人で判断するのは難しいため、新築時に施工した工務店やハウスメーカーなどに定期点検を依頼することになる。多くの工務店やハウスメーカーは、定期点検制度や保証制度を用意している。戸建て住宅の「外装」部分は、地域によって異なるがおおむね10~20年で性能の劣化が進行する。修繕が必要な場合、住宅の規模などによって異なるが、外壁の塗装とコーキング(気密性や防水性を補修するため、隙間を目地材などで充填する作業)で80~150万円程度がひとつの目安と考えてもらえればいいだろう。
一般社団法人住宅リフォーム推進協議会の「2023年度 住宅リフォームに関する消費者(検討者・実施者)実態調査」によると、リフォーム実施箇所として「トイレ・便所」が48.4%と最も多く、次いで「浴室・洗面所」(45.9%)、「キッチン・調理室」(36.8%)、「リビング・居間」(33.6%)と続く。リフォーム実施者の平均予算は266万円で、実際にかかった費用は平均348万円となっている。その理由としては「予定よりリフォーム箇所が増えた」、「設備を当初よりグレードアップした」との回答割合が高く、「トイレ・便所」や「外壁」、「屋根」、「設備」は検討段階よりも工事を実施する割合のほうが高い。また、予算よりも実際に多く費用がかかった箇所は、「浴室・洗面所」が最も高かった。リフォーム検討のきっかけは構造部や設備・機器の老朽化や破損であり、これらの結果を踏まえると、住宅のメンテナンスは、不具合が発生してから実施すると想定以上に工事が必要なところが出てきていまい、コストが膨らむ傾向があるということになる。
こうした事態を避けるためにも、定期点検や早い段階での機器の取り替えなどを行うことと、余裕を持ったメンテナンス資金の準備が必要になってくると言える。また、まとまった資金が必要な場合、条件が合えば住宅金融支援機構の融資や各自治体のリフォーム補助金などの支援もあるので、国土交通省や各自治体のホームページを調べて検討するのも有効だろう。
住宅のメンテナンスは計画的に検討したほうがコストも安く済む
リフォーム予算を上回った理由
出典:住宅リフォーム推進協議会「2023年度 住宅リフォームに関する消費者(検討者・実施者)実態調査」から作成