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VOL.69
木造住宅の地震後の安全チェック
執筆住まい・まちづくり研究家 桑島良紀(明海大不動産学研究科博士課程)
2024
10.16
日本全国どこにいても被災する可能性がある自然災害の代表格、それが地震だ。地震への備えとして住宅には耐震基準が設けられており、わが国は大きな地震が起きるたびに耐震基準を見直してきた。新築住宅はもちろん築40年を経過した住宅も耐震性を備えていると言えるのだが、住宅の耐震基準は基本的に一回の地震を想定したもの。つまり、一度でも大きな揺れを受けた住宅は耐震性が低下している可能性がある。「この家、住み続けていいのだろうか?」。そんな声に応える安全判定パンフレットが誕生した。
地震は全国各地で頻繁に起きている。どれくらいの大きさの地震を受けたらチェックが必要になるのだろうか?大きな地震で被災した地域に近い住宅はチェックすべきなのだろうか?そもそも専門家に依頼してチェックを受けなければいけないのだろうか?
こうした疑問を整理するのに役に立つツールとして、国土交通省は「~木造住宅の地震後の安全チェック~この家、住み続けていいのかな?」というパンフレットを作成した。自治体や専門家に相談する前に、自分で簡単にチェックできるというすぐれもの。しかも無料で誰でも入手することができる。国交省のホームページのほか、石川県土木部建築住宅課や宮崎県県土整備部建築住宅課のホームページ、一般財団法人日本建築防災協会の耐震支援ポータルサイトからもダウンロードが可能だ。
パンフレットの表紙。全部で4ページ構成となっている
このパンフレットでチェックできる木造住宅は、次の4つの要件のすべてに当てはまるものを対象にしている。1つめは震度5強以上の揺れを受けたこと。2つめは家全体が傾く、柱が折れる、外壁が外れるなど大きな被害がないこと。3つめは平屋、2階建て、3階建てのいずれかであること。そして4つめが1981年(昭和56年)6月以降に建てたものであること。なお、判定できる木造住宅は、一般的な軸組構法または枠組壁工法(ツーバイフォー)の住宅が対象で、店舗併用住宅も含んでいる。
近年、大きな地震が各地で発生していることから、被災していなくても震度5以上の揺れを経験した木造住宅は全国的にかなり多いと推測される。2011年の東日本大震災では、人口が集中している東京や埼玉でも震度5強を経験しているが、直接被災していない木造住宅にお住まいの方の場合、この地震の後にしっかり安全チェックをしたという人は少ないのではないだろうか。
パンフレットの表紙。全部で4ページ構成となっている
パンフレットで紹介されているチェック項目は全部で4つ。木造住宅の傾きやひび割れなどの状態を、4つの項目に従って目視で確認するのだが、写真やイラスト付きで解説しているので、住宅のどこを確認すればいいのかががとても分かりやすい。チェック項目ごとの結果を踏まえて、自治体や専門家への相談が必要かどうかを簡単に判断できるようになっている。
「はい」「いいえ」でチェックするだけでOK
具体的なチェック項目は、①敷地や住まいの状況、②基礎の状況、③内壁と外壁で最も損傷している部分の状況、④住んでいる地域の震度で、①から順番にチェックしていく方式だ。
まず、チェック①では「敷地内に液状化やひび割れがある」「床をもの(ボール等)が転がる」「窓の開閉がしづらくなった」の問いに「はい」か「いいえ」で回答。すべてが「はい」ならチェック②へ進み、一つでも「いいえ」があれば、「お住まいの市町村や専門家へご相談」が必要という判定となる。①から④のすべてのチェックを行い、総合判定で「このまま住み続けて大丈夫」という結果が出た場合も、瓦屋根など被害を受けた部分があれば補修することを勧めている。
チェックをした結果、自治体や専門家への相談が必要になったときの参考情報もパンフレットに掲載している。自分が住んでいる地域の専門家を知りたい場合は「都道府県別の被災度区分判定・復旧技術事務所名簿」へのリンクが、液状化について詳しく知りたい場合や住んでいる地域の震度を知りたい場合、被災度区分判定の詳細を知りたい場合には、いずれも日本建築防災協会の関連ホームページへのリンクがQRコードから簡単にアクセス可能になっている。
内壁と外壁の破損状況について、イラストを見ながらチェック
ところで、専門家による耐震診断費用はどのくらいになるのか、また改修が必要な場合の費用はいくらになるのかは気になるところだ。残念ながらパンフレットには書いていないが、耐震診断費用の目安としては10万〜50万円程度と言われている。日本木造住宅耐震補強事業者協同組合が公表している「木耐協 耐震診断結果 調査データ」(2018年8月21日発表)によると、耐震補強工事の平均施工金額は約163万円、耐震補強工事の約52%が工事費用150万円未満となっている。なお、都市部か地方なのか、一般的な軸組構法なのか、ツーバイフォーなのかといった個々の住まいの状況によって目安以上の費用がかかる可能性がある点には注意が必要だ。
このように専門家による耐震診断、耐震補強工事にはある程度まとまった費用が必要になる。地震はいつ起こるか予測がつかないものだから、ついつい対策を後回しにしてしまいがちな家庭も多いかもしれない。特に子育て世代などは子供の教育費用などを優先してしまう家庭事情があっても仕方がないことだろう。そこで、活用したいのが自治体の補助制度だ。全国の自治体の多くが耐震診断や耐震改修費の補助制度を設けている。戸建て住宅の耐震診断補助は全国自治体数の約84%、耐震改修補助も約63%で導入されている(2023年4月時点、国土交通省調べ)。
日本の住宅形態は、約57%を木造住宅が占めている主要な住まいの形態である。大きな地震は日本のどこにいても起きる可能性があり、いつ起こるのかも分からない。南海トラフ地震への警戒がますます高まっている中、この機会に自宅の安全性チェックをしてみてはいかがだろうか?
パンフレット「~木造住宅の地震後の安全チェック~この家、住み続けていいのかな?」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001756178.pdf(国土交通省)
パンフレットは石川県、宮崎県、一般財団法人日本建築防災協会のホームページでも公開中
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kenju/anzencheck.html(石川県)
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/kenchikujutaku/kurashi/shakaikiban/20240809125129.html(宮崎県)
https://www.kenchiku-bosai.or.jp/srportal/srknow/anzencheck/((一財)日本建築防災協会)
(パンフレットの画像は、国土交通省ホームページ「~木造住宅の地震後の安全チェック~この家、住み続けていいのかな?」より)