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VOL.68

住まいのエンディングノート

住まいの将来を考える空き家対策の重要ツール

執筆住まい・まちづくり研究家 桑島良紀(明海大不動産学研究科博士課程)

2024

9.18

 最近よく聞く「終活」というキーワード。自分がどのような最期を迎えたいのか、身の回りの物の整理など、残された家族や親族に迷惑がかからないよう生前に準備することをいうそうだ。交友関係の整理、葬儀の形式や墓の検討など多岐にわたる終活だが、もうひとつ「住まいの終活」も忘れてはならない。

「住まい」に特化したエンディングノートを活用

 まだまだ元気だが年齢を重ねた人が自分の住まいをどうするか、考えたことがある人は想像以上に少ない。多くの人は、新たな住まいを購入、入居する前に、間取りや駅までの距離、買い物の便利さ、近所の学校の評判まで数多くのことを検討するが、年月が経ち、子供が独立するなど環境が変化しても、今住んでいる住まいを将来どうするのかを考える機会はあまりない。こうした住まいに関する情報や誰に相続するのか、将来どうして欲しいのかなどを所有者自らが書いて残しておくものとして、国土交通省、日本司法書士会連合会、全国空き家対策推進協議会は6月に「住まいのエンディングノート」を作成し、無料ダウンロードができる※1ようになっている。これは、住まいを所有する一般の人に向けたもので、全国的に問題となっている空き家対策の重要なツールの一つだと言えよう。

住まいのエンディングノート はじめに

放置され問題化する前の空き家対策に

 所有する住まいが将来空き家にならないためにも、事前の準備は重要だ。その準備をするためのツールとして「住まいのエンディングノート」は位置付けられている。
 実は、法務省と日本司法書士会連合会は、「エンディングノート 〜あなたに届け、わたしの想い〜」を公開※2している。その導入部分には「親族が亡くなって相続した不動産について相続登記がされていないケースが多いことが、所有者不明土地問題として大きな社会問題になっています。相続登記が放置され、所有者がわからない空き地が増加したり倒壊の危険のある家屋が増えたりして、地域の暮らしにも悪影響が及んでいます。」とあり、2024年4月から不動産の相続登記申請が義務化されたことを受けて作成された。「住まいのエンディングノート」は、この法務省の「エンディングノート」をベースに作られており、特に所有する不動産について将来の心配がある場合には、住まいの情報に特化しているためページ数も少なく、取り組みやすいかもしれない。

※1 
「住まいのエンディングノート」国土交通省ホームページより
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr3_000054.html
※2 
「エンディングノート 〜あなたに届け、わたしの想い〜」法務省ホームページより
https://www.moj.go.jp/content/001395858.pdf
住まいのエンディングノート はじめに

 「住まいのエンディングノート」は、まず表紙に名前と年月日を書く欄があり、誰がいつ書いたものかを明確に分かるようにしていることが大きな特徴だ。最初にしっかりと所有者自らの意思によることを示している。

住まいのエンディングノート 表紙

 内容は2部構成となっており、第1部で必要な情報の記入、第2部で住まいの売却、賃貸、所有、「放置空き家」の問題、相続などの情報、相談場所の情報を掲載。なお、第1部は、「エンディングノート」の内容とほぼ共通している。
 第1部は、親子で住まいの将来について考えるきっかけを作り、家系図や建物・土地の所有の状況に加え、これらを将来どうしたいかなどの情報を住まいの所有者が記入できるようになっている。
 第2部は住まいの将来を考える際の参考情報として、住まいの「活かし方」(売る・貸すなど活用する)、「しまい方」(解体する)に関する制度や税制、手続きへの理解を深めるために活用できる。

住まいのエンディングノート 表紙

増え続ける空き家、問題化後の対処難しく

 「住まいのエンディングノート」が作成された背景には、増え続ける空き家の存在がある。総務省が2024年4月に発表した「令和5年住宅・土地統計調査」の速報集計によれば、2023年10月1日時点で空き家の戸数は900万戸と過去最多、前回調査(2018年)から51万戸増加した。日本の総住宅数は、6502万戸と前回調査と比べて4.2%(261万戸)増加し、過去最高戸数を更新しており、空き家率も13.8%と過去最高を更新した。空き家のうち問題となるのは、賃貸住宅の空き住戸や売却用の住宅、別荘といった使用目的がはっきりしている住宅以外のもので「放置空き家」と呼ばれている。この放置空き家の戸数は385万戸、前回調査より37万戸も増加した。これは25年前の2倍以上の水準だ。

 国土交通省の「令和元年空き家所有者実態調査」によれば、空き家は相続で取得したケースが半数を超えている。同じ調査で、空き家のままにしておく理由として、「物置として必要」、「解体費用をかけたくない」、「更地にしても使い道がない」という回答が多い。この調査結果からは、解体費用の補助や空き家の使い道を提供すれば、空き家問題が解決しそうだが、現状では大きく数を減らすための決定打には至っていない。

多くの人に向けた大きな役割担うツール

空き家は、長期間放置されると、犯罪の温床となったり、害虫や害獣のすみかになったり、悪臭や倒壊の危険性が増すなど、通行人や近隣の人に迷惑がかかる原因となりうる。「住まいのエンディングノート」の中でも、こうした「放置空き家」となることのデメリットを指摘する記述がある。
 また、「放置空き家」を処分することが難しいのは、個人の財産である空き家を行政や第三者が勝手に手を入れることはできないという事情もある。これまでの空き家対策は、基本的には「放置空き家」の所有者を探し、所有者を説得することが基本だった。空き家の売却やリノベーションは所有者の意思決定が伴って初めて可能となる対応策であり、行政代執行による強制的な取り壊しは、あくまでも最終手段だ。それは今も変わらない。所有者が不明な場合は、取り壊しの費用を税金で負担することになる。このように、問題が起きてから空き家に対応するのでは、いろいろと難しい課題が発生してしまう。
 空き家対策は不動産事業者にとっても関心が高く、国からも責任ある役割を果たすことを期待されている。同様に「住まいのエンディングノート」は、多くの人に向けて「放置空き家」の発生を事前に防ぐという大きな役割を担うツールであると言える。

(画像はすべて国土交通省ホームページ「住まいのエンディングノート」より)

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