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VOL.67

居住サポート住宅

要配慮者の賃貸入居を促す「居住サポート住宅」

執筆住宅ジャーナリスト 殿木真美子

2024

8.21

 住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)の改正案が、今年(2024年)の5月30日、衆議院本会議にて可決・成立した。2017年からスタートしたこの法律は、住居を探しづらい人、いわゆる住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給促進と、彼らの居住の安定確保を目指している。特に、今回の改正で新たに設けられた認定制度「居住サポート住宅」とはどんなものなのか、詳しく見ていこう。

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セーフティネット住宅とは

 わが国では、単身世帯の増加や持ち家率の低下などから、高齢者や障害者、低所得者層やひとり親世帯など、いわゆる「住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)」といわれる人たちの住居探しが社会問題化している。本来セーフティネットとなるはずの公営住宅の大幅な増加が望めない一方で、民間の空き家・空き室は増加しているため、後者に要配慮者の入居を進めれば問題ないのだが、実際にはそう簡単な話ではない。
 民間の賃貸住宅を持つ大家からすれば、さまざまなトラブルが起こると推測される要配慮者の入居はリスクが高いと考えられている。特に、増加の一途をたどっている単身高齢者に対しては、孤独死や死亡後の残置物処理などがリスクとなるため、大家の拒否感は強い。
 そこで、民間の賃貸住宅を活用し、要配慮者の入居をより円滑にするために創設されたのが「住宅セーフティネット制度」だ。要配慮者を受け入れてもよいと考える大家が、都道府県に自身の所有する賃貸住宅を「セーフティネット住宅」として登録をし、自治体はその情報を公開しマッチングなど入居支援を行なうとともに、改修費や家賃低廉化などに対しては国と自治体から補助金を出す。登録できる住宅は耐震性や住戸の床面積などに制限があるが、要配慮者の中でも高齢者のみOKなど、大家が自由に選択できるとされている(図1参照)。

図1 セーフティネット住宅のイメージ

図1 セーフティネット住宅のイメージ

出典:国土交通省「住宅セーフティネット制度について」

入居後のより個別的な対応が不可欠

 制度が開始されて約7年が経つが、セーフティネット住宅の登録戸数は全国で約85万戸(2023年3月末時点)とそれなりの成果を上げており、積極的に独自の補助制度などを設けている自治体もある。
 ただ、これで大家と入居者双方の不安感が払しょくされたとはいえない。入居支援で空き室が埋まり、改修費等の補助金が出たとしても、結局入居後のトラブルには対応しなければならないからだ。
 2019年に国土交通省が全国の不動産関係団体等に対して行ったアンケートでは、要配慮者に対して、入居を拒まない物件の情報提供よりも、より個別的な居住支援策が必要だという結果が出た。具体的には、高齢者世帯に対しては見守り・生活支援と死亡時の残置物処理、障害者世帯へは見守り・生活支援、低所得世帯やひとり親世帯へは家賃債務保証の情報提供、外国人世帯へは入居トラブルの相談対応といった具合である。
 そこで、入居後の要配慮者に対し個別に居住支援を行うことで、大家と入居者の不安を軽減するために新たに創設されたのが、「居住サポート住宅」(法律上は居住安定援助賃貸住宅)だ。

入居者に寄り添う「居住サポート住宅」

 これまでの住宅セーフティネット制度下では、入居後の支援等を行う居住支援法人として、宅建業者等の不動産関係団体のほか、居住支援を行う社会福祉法人やNPOなどが都道府県知事により指定され、地域の居住支援の担い手は着実に増加してきた。居住サポート住宅は、大家とその居住支援法人等が共同し、入居した要配慮者に寄り添って、ニーズに応じて安否確認や見守り、さらには適切な福祉サービスへのつなぎを行う住宅とされている(図2参照)。

図2 居住サポート住宅のイメージ

図2 居住サポート住宅のイメージ

出典:国土交通省
「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律案」概要

 では、居住サポート住宅はセーフティネット住宅と何が違うのか、そもそもセーフティネット住宅に登録した住宅でなければ居住サポート住宅となれないのか、混乱してしまいそうだが、これらはそれぞれ別の制度と考えてよい。
 どちらも、要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の供給を促進することが大目的であるが、セーフティネット住宅がそれらの賃貸住宅の情報を公開しマッチングすることを目的とした都道府県知事による登録制度であるのに対し、居住サポート住宅は入居支援を行うことで大家と入居者の不安を軽減することが目的の、市区町村長による認定制度となる。
 大家側からすれば大きな魅力であったセーフティネット住宅のさまざまな補助金に関しては、居住サポート住宅にも同じように適用されるという。また、セーフティネット住宅には登録していないが、居住サポート住宅の認定は受ける、ということも可能だ(表1参照)。

表1 セーフティネット住宅と居住サポート住宅の比較

セーフティネット住宅 居住サポート住宅
制度 都道府県知事による登録制度 市区町村長による認定制度
目的 要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の供給促進
情報公開、マッチング 入居者への居住支援による入居後の不安軽減
登録、認定基準 床面積:各戸25㎡以上
構 造:耐震性を有し、一定の設備を設置していること 等
・居住支援法人による居住支援があること
・人感センサーを備えること 等
補助金 改修費用、家賃低廉化、人感センサー設置費用等の補助

国土交通省の資料等を基に筆者作成

「見守り付き賃貸」の普及なるか

 居住サポートを行う団体と共同することで、いわゆる「見守り付き賃貸」となる居住サポート住宅。居住支援法人等に支払うサポート料については、原則として要配慮者と法人がサポート内容を定めて契約し、入居する要配慮者が直接支払うことになる予定だが、家賃低廉化の補助金を活用すれば負担感は軽減される。
 また、生活保護受給者が入居する場合は家賃の代理納付を原則化すること、要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者の認定制度も新設し、入居する要配慮者は原則としてこれらの認定業者が家賃債務保証を引き受けることなど、要配慮者が円滑に入居できる環境が多角的に整備された形だ。
 さらに、より身近な自治体である市区町村等の地方公共団体において、その住宅・福祉部局と不動産関係団体、福祉関係団体等を合わせた「住宅確保要配慮者居住支援協議会」の設置を努力義務とし、地域での包括的な支援体制の整備を図ることで、今後10年間で10万戸の居住サポート住宅の供給を目指している。

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