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VOL.65
家庭用核シェルター
執筆ニューヨーク在住ジャーナリスト 石黒かおる
2024
6.19
米国のテレビ局FOXが配信するFOXニュースは今年(2024年)1月、メタ・プラットフォームズの最高経営責任者マーク・ザッカーバーグが、ハワイのカウアイ島に約2億ドル(約300億円※)をかけて1,400エーカー(約5.67㎢)の土地に5,000平方フィート(約464.5㎡)の地下シェルターを備えた巨大施設を建設中と報じて話題となった。核兵器から身を守るシェルターは彼らのようなスーパー・セレブたちだけの特別なものだろうか。FOXは「Bunkers aren't just for billionaires: Inside underground spaces for average Americans(地下要塞は億万長者だけのものではない: 平均的アメリカ人のための地下空間)」と番組でレポート。オハイオ州の会社では、21,000ドル(約3,150,000円※)からのシンプルな地下壕の設置を提供していると紹介した。※1ドル=150円で換算
現在、核保有国は、米国、ロシア、フランス、英国、中国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の 9カ国。地球上に存在する核弾頭の総数は推定12,520発(2023年6月時点・長崎大学核兵器廃絶研究センター)とされている。北朝鮮の弾道ミサイル発射と核開発、ロシアのウクライナへの侵攻、イスラエル軍によるガザへの侵攻、イランのイスラエルへの攻撃、その報復攻撃。今、世界は米ソの冷戦以後、これまでにないほどに核の脅威にさらされていると言っても過言ではないであろう。
核兵器が使われた場合、身を守るための核シェルターの普及状況は国によって様々だ。永世中立国のスイスではキューバ危機の後、1963年に核や化学兵器に対応するシェルターの設置を全ての建物に連邦法で義務づけた。スイスには約36万の地下壕があるとされているが、ジュネーブでは人口の75%しかシェルターに入れない地域もあるという。また、イスラエルには多くの公共施設や家庭内の防空壕のシェルターが存在するが、今年(2024年)4月のエルサレム・ポストの記事によればエルサレムでは住民に行き届く十分な核シェルターがないと報じられている。マイネット・エルサレムが昨年(2023年)11月に発表した報告書によると首都に住む100万人の住民のうち、半数に近い48%の人がセーフ・ルーム(緊急時に避難する安全な部屋)を利用できないとしている。
中国から強大な軍事的圧力をかけられている台湾ではどうか。台湾の総務省によると中国の軍事衝突に備え、防空避難設備は全土に約10万6,000カ所あり、約8,665万人を収容でき、その数は全人口の約4倍近い規模だとしている。
米国では米ソ冷戦時代の1950年代から60年代にかけて、様々な雑誌に地下に設ける家庭用核シェルターの広告が多く見られた。冷戦当時、ニューヨークには約18,000カ所の核シェルターがあり医薬品、食料、水、毛布が備蓄されていたと推測される。ニューヨークの集合住宅の地下には放射性降下物シェルターが設けられ、ビルの入口には放射性降下物シェルターを示す黄色い看板が張られていた。しかし、それらはいつしか忘れさられ、ねずみと汚水の地下核シェルターは1979年には廃止され歴史の遺物となってしまった。2017年、ニューヨーク市教育局は誤解を招く看板として全ての建物から黄色い看板を撤去するよう命じた。
政府機関と協力するニューヨークの名門コロンビア大学の研究プログラム、国家災害対策センターのディレクター、ジェフリー・シュレーゲルミルヒさんに家庭用核シェルターについてメールで問い合わせると「現在、米国の一般家庭で核シェルターを備えている家がどのくらいの数があるか、そのデータはない。個々の一般家庭に核シェルターが必要だとは思わないが、一般的な家庭は、放射性降下物による被害を避けるためにどのような防護行動を取ることができるかを知っておくべきだ。小規模な爆発が起こった場合に多くの命を救うことができる。長期的な放射性降下物シェルターは必要ないが、爆発後24時間程度は放射性降下物による汚染を避けるための簡単な防護措置が重要である」と回答が届いた。
また、シュレーゲルミルヒさんによれば「米ソ冷戦時代の1960年代には米国防総省や民事防衛局から家庭用核シェルターに関する指導やニューヨーク州の規制はあったが、半世紀以上も前の規制で現在の核シェルターにあるべき方針からは著しく外れている。これらの規制のほとんどは遺物であり、現在では積極的に推進されているわけではない」としている。
ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ニューヨークでも動きがあった。ニューヨーク市緊急管理局(NYC Emergency Management)は2022年7月、核兵器の襲撃を受けた時の対処方法について約90秒のYouTubeの動画「Nuclear Preparedness PSA(核への備え)」を配信した。当局は、攻撃の可能性は「非常に低い」としながらも動画では3つの重要なステップを紹介している。
| ・ステップ1 | 直ちに屋内に避難し、窓から離れる。車内には留まらない。 |
|---|---|
| ・ステップ2 | 室内では建物の窓と扉を閉め、可能な限り室内の奥に移動、地下室があれば地下室に避難。もし、爆発時に屋外にいた場合は放射線物質が付着した服をビニール袋にいれ封をし、すぐに石鹸やシャンプーで全身や髪を洗う。 |
| ・ステップ3 | メディアから最新の情報を得て、安全が確認される公式発表があるまでは外に出ない。 |
そして、緊急時に即座に情報が届く同市の無料の緊急コミュニケーション・プログラムのNotify NYCに登録するように市民に呼びかけた。
では、日本の現状はどうか。内閣官房は屋内の緊急一時避難施設は全国に56,173カ所、そのうち地下の施設は3,336カ所と公表している(2023年4月時点・図1)。
そして、2023年8月、内閣官房は2024年度予算の概算要求で、有事に住民が一定期間避難できるシェルターの整備に向けた調査などに1億2,000万円を計上すると公表した。また、東京都は2024年度の予算に外国からの攻撃に備え、住民が避難し一定期間滞在できる地下シェルターを都内に整備する方針を固め、都営地下鉄大江戸線の麻布十番駅にある防災倉庫の活用について調査を進めるとした。

NPO法人日本核シェルター協会のサイトでは、核シェルターと呼べるものとして、核攻撃の爆風、熱線、放射線、残留放射線(誘導放射線、放射性降下物)の被害から防護する構造の「地下に鉄筋コンクリートで建設するタイプ」としている。
また、命を守るシェルター協会のサイトでは、核シェルターには3つのタイプがあると紹介している。
① 地下に埋めるタイプ(最も頑丈)。
② 一般家庭や駐車場・地下街に取り付けるタイプ(地上の住宅に設置する場合は地下設置型ほど核爆発の衝撃に耐えられないが、放射能や放射性物質を除去する空気清浄装置を設置し、核爆発の一撃を逃れた後の生存環境を確保することに役立つ)。
③ 地上に建てるタイプ(住宅や社屋の新築時に併設して地上の空きスペースに建てる。地下設置型ほど核爆発の衝撃に耐えられないが、 放射能や放射性物質からは身を守れる)。
日本にも家庭用核シェルターの販売を行っている会社は数社ある。価格は約1,500万円から4,000万円ほどのようだが、青森県の建設会社が販売する核シェルターは約1,300万円で販売されている。食糧と簡易トイレを備えておけば、どのメーカーの核シェルターも通常約2週間は過ごせるものを設計している。日本核シェルター協会によれば、その理由として、核爆発から約2週間で外部の残留放射線は千分の1程度に減り、人の体への影響が少なくなるとしている。
家庭用核シェルターを実際に設置するには工事が必要なため、家庭用核シェルターを販売している会社に依頼する。モデルルームを展示している会社もあるので参考にすると良いであろう。
「備えあれば憂いなし」ではあるが、核兵器の攻撃が起こらないことを願わずにはいられない。