トップ>相場・取引動向>データトピックス>既存住宅市場の現状-(1) その市場規模
ここでは、不動産流通市場を取り巻く様々な動きをデータで読み解きます。 第1回は、今後の着実な拡大が期待される既存住宅(中古住宅)の市場規模について紹介します。
わが国の既存住宅市場を説明する場合、頻繁に紹介されるデータとして既存住宅流通シェアの国際比較という数字があります(図表1)。それによると、日本の新築着工戸数は2013年時点で98万戸ですが、既存住宅流通量は17万戸弱で、全体に占める既存住宅取引の割合は14.7%にとどまります。
一方、時点は異なりますが、米国の新築着工戸数は年間55万戸に対し既存住宅取引戸数は516万戸と、その割合は全体の90.3%に達します。英国やフランスにおける既存取引の割合も6割から8割を占め、日本を大きく上回ります。
米国の人口は日本の約2.5倍ですが、それを考慮しても500万戸以上という数字は巨大であり、活発な取引がうかがえます。日本の半分程度の人口に過ぎない英国やフランスも取引戸数は50~70万戸台で、わが国の市場規模が欧米に対していかに小さいかがわかります。
こうした数字の背景には、住宅ストックに対する評価の違いがあるようです。日米の住宅投資額累計と住宅資産額を比較したデータをみると、米国は過去の新築投資額の合計と住宅全体の資産額がほぼ釣り合っているのに対し、日本の住宅資産額は投資額を大きく下回ります。つまり、わが国では既存住宅に対する市場の評価が低く、根強い新築志向が既存住宅の取引を抑える結果を生んでいると言えます。
では、日本の既存住宅市場は低迷しているのでしょうか?実はここ数年、既存住宅の市場規模は着実に拡大する傾向にあります。上記と違った視点で業界団体(不動産流通経営協会)が推計したデータによると、日本の既存住宅流通量は2013年時点で54.7万戸(従来推計値)となっており、10年間で2割近い伸びを示しています(図表2)。
前述の17万戸弱とは大きな開きがありますが、これは推計の元となっている統計資料の違いが影響しています。前述の数字は国による5年毎のサンプル調査(住宅・土地統計調査)に基づき、調査時点で既存住宅に居住している世帯のみを対象にしています。一方、図表2は建物の売買による所有権移転登記個数をベースに推計しており、セカンドハウスや賃貸住宅としての取得、法人取引などを含み、市場の実態により近いものとされています。
新築着工数と既存住宅流通量の合計に対する既存住宅の割合(既存住宅流通比率)も示されていますが、2008年のリーマンショック以降、新築着工数の減少でこの数値は上昇しました。2013年は消費税8%移行前の駆け込み需要により新築が増えたため、この比率は35.8%(従来推計値)とやや低下しましたが、流通量自体は増加し続けています。
既存住宅流通比率は50%を超えると、既存が新築の戸数を上回ります。東京都や大阪府などの大都市圏は40%を超えていますが、都区部の千代田・中央・港・渋谷・新宿などの都心区は、すでに既存住宅流通量が新築着工数を上回っています。新築着工数を売買流通の中心である持家系に限ると、全国ベースでも既存の戸数が新築に迫ります。
このように、比較的取引されやすいマンションストックが多い都市部を中心に、既存住宅の市場規模は着実に拡大しています。捉え方によっては、一般に指摘される以上に既存住宅の利用は進んでいると言えそうです。本格的な人口減少社会を迎えるなかで、既存の住宅ストックを活かした賢い選択はますます広がりをみせるでしょう。
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