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国土交通省・不動産業課の役割:安心安全な不動産取引のための対応策を審議会を通じて具体的に検討

2009年5月1日

Interview
国土交通省 総合政策局 不動産業課
取材:住宅ジャーナリスト 山本久美子氏

国土交通省総合政策局不動産業課では、不動産取引に関連してどのような業務を行っているのかを紹介するシリーズの第2回です。今回は主に法規関係の整備について、ご担当者にお聞きしました。

不動産取引に関する法規関係を整備

――前回は不動産業指導室の役割についてご紹介しました。それ以外の不動産業課の基本的な役割について、具体的にお聞かせください。

宅地建物の取引や分譲マンションの管理にかかわる業者への指導・監督が不動産業指導室の役割ですが、不動産業課では、それ以外にも不動産取引の円滑化や適正化のための業務を行っています。不動産業課では宅地建物取引業法などを所管していますので、まず、法律の立案や制度の見直しなどの法規関係の業務が挙げられます。さらに、不動産ジャパン(当サイト)を含む不動産流通市場の情報インフラの整備に関する業務も行っています。

――不動産取引の円滑化や適正化のための業務については、2つの側面があるのですね。今回は、法規関係の業務について、詳しくお聞きしたいと思います。

法規関係の業務について言えば、現在、社会資本整備審議会の不動産部会において、不動産市場をめぐる社会経済状勢の変化とそれらへの対応の必要性にかんがみ、安心安全な不動産取引、既存住宅市場の活性化などについて検討しています。

――不動産部会で審議している内容の中でも、消費者にかかわる部分では、どういった対応策が検討されているのでしょうか?

今回の審議会では、3つのテーマが取り上げられており、どれも消費者と関係の深いものです。
1つ目は、消費者の安心安全な取引に対する意識の高まりも踏まえ、重要事項説明制度を含めた情報提供のあり方について。
2つ目は、既存住宅の流通を活性化していくために、どのような取り組みが必要なのか、ということ。具体的には、告知書やインスペクションの活用を検討しています。
3つ目は、賃貸不動産管理についてです。ストックとしての賃貸住宅が適正に管理されて、市場に供給されることが求められていますので、賃貸不動産の適正な維持管理のための方策について検討しています。

図 社会資本整備審議会 不動産部会 中間取りまとめ参考資料より

※社会資本整備審議会 不動産部会 中間取りまとめ参考資料より抜粋

消費者が理解しやすいように、重要事項説明の見直しを検討

――では、住宅の購入者に対するより適確な情報提供についてお教えください。

第1の購入者等に対するより適確な情報提供では、「重要事項説明」についての見直しが一つの大きなテーマです。契約の直前になって、消費者が購入する不動産について重要事項に関する大量の説明を受ける、というのが現状です。説明を受ける側が重要事項説明の内容について十分な時間を持って検討することができていないのではないか、という指摘が多いのです。これを解決するために、重要事項説明で使用する書面の写しなどを、事前に渡す制度にできないか、といったことを議論しています。
また、消費者が事前に書面を見た上で、理解できる部分と理解できない部分を整理しておいてもらい、詳細な解説が必要な箇所を中心に事業者から説明をしてもらう、という形にできるのではないかと考えています。既に理解していることも含めて、すべての項目の説明に時間をかけるのではなく、分からない点を重点的に説明するほうが、消費者の理解も深まり、トラブルも減るのではないでしょうか。

既存住宅市場活性化のため、告知書などの活用を検討


第2の既存住宅市場の活性化についてですが、市場が活性化しない一つの要因として、物件の品質に対する不安があることが考えられます。品質に関する透明性や信頼性を高め、売り主・買い主ともに安心して取引ができる市場を育成するための取り組みとして、「告知書※1」や「インスペクション※2」の活用について議論しています。

――告知書を受け取る買い主にとっては、物件の詳しい情報が提供されるメリットがありますが、告知書を作成する売り主にもメリットはあるのでしょうか?

売り主にとっては負担に感じるかもしれませんが、履歴情報を提供することで、物件が適正な価格評価を得られるようになります。また、後で発生した不具合が隠れた瑕疵※3に該当するかどうかについて、事前説明の有無が明らかになるので、将来のトラブルを防ぐことにつながると考えています。

※1
告知書とは、物件の過去の修繕等の履歴や欠陥など、売り主しか分からない事項について詳しく記載した書面のことで、取引の際に買い主に情報を提供するもの。
※2
インスペクションとは、第三者による建物の検査及び調査のこと。
※3
雨漏りや白アリ被害のような物件の欠陥などを瑕疵(かし)といい、そのうち、取引上要求される一般的な注意では発見できないものを「隠れた瑕疵」という。隠れた瑕疵が判明した場合、買い主は、売り主へ物件の修補や損害の賠償を求めることができる場合がある。

――以前からインスペクションを実施する事業者はいましたが、業界全体への普及は進んでいません。それについてはどうお考えですか?

既存住宅を安心して取引したり、将来のトラブルを防止したりするためには、取引時点の物件の状況を第三者が客観的に調査した結果を参考にできる環境の整備が求められています。ただしインスペクションの普及には、その結果が、適正に価格評価に反映されることが必要でしょう。そのためには、検査方法を標準化したり、業界においてインスペクションの活用実績を増やしていくことが重要です。審議会でも、そのための補助制度や税制上のメリットなどインスペクションの活用を促すインセンティブが必要だとの議論がされています。

賃貸不動産の管理業務の範囲を明確化することを検討

――3つ目の賃貸物件の管理については、どういった議論がなされているのでしょう?

借り主にとっては、借りる前には物件の管理の状況がよく分からないというのが現状です。
物件ごとの管理の良し悪しが市場で適正に評価され、借り主が物件を選定する場合の指標となるのであれば、自ずと良い物件が残っていくことが期待されますが、現実はそうではありません。また、賃貸住宅の大部分が個人所有であることから、貸主が賃貸業についての専門知識を十分備えているとは必ずしも言えず、どの事業者が管理業務を適切に遂行できるか判断する情報が不足しているということが挙げられます。
さらに、賃貸不動産管理は、業務の具体的な範囲がはっきりしていないのが現状です。事業者によって業務の範囲が違うので、借り主も貸主も、何を事業者に頼んだらよいのか、誰が責任を取るのかがよく分からないのです。それがトラブルにつながってしまうケースもあります。今後審議会では、この賃貸不動産管理についての業務範囲を明確にしていくことなどの課題を検討していく予定です。

消費者への不動産関連知識の普及・啓発も必要

――審議中の対応策が具体化して、消費者にも直接影響が出てくるのは、いつ頃になるのでしょう?

審議会としては、年末までに最終的な取りまとめをする予定ですが、法改正を行うとの結論になればそのための準備期間等も必要となるため、今すぐに制度の見直しが行われるというわけではありません。ただ、「審議会でこうした課題について議論している」という方向性を、消費者にも理解してもらうことが大切だと考えています。 これまでは、法律の改正や施行がなされてから、消費者に周知するという流れでしたが、 今後は、今施行されている制度だけではなく、長期的に行政がどういう方向に動いているのかなど、今後の動向を知ってもらうことも重要だと考えています。

――最後に、消費者へのアドバイスをお願いします。

不動産取引というのは、生活の基盤になる重要なものです。しかし、金額も大きく、一生に一、二度しかないと言われるように取引に習熟している人は少ないものです。従って、不動産を売るにしても買うにしても、事前に消費者がある程度の知識を身に付けることが大切です。宅地建物取引業法という法律がありますので、事業者への必要な指導監督といった行政としての対応は今後とも実施していきますが、取引する消費者の知識レベルが上がり、それに対応する事業者のレベルも上がることにより、不動産取引市場がより良いものになっていくことが望ましいと思います。

※インタビューの内容は、2009年4月時点の取材によるものです。

国土交通省

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