国土交通省は、不動産業などを所管していますが、消費者から見ると遠いイメージがあるのも事実です。そこで、国土交通省総合政策局不動産業課では、不動産取引に関連してどのようなことを行っているのかを、3回にわたって紹介する予定です。第1回は、不動産業指導室の役割についてご担当者にお聞きしました。
主な業務は宅地建物取引業者やマンション管理業者への指導監督
――一般消費者から見ると、国土交通省ではどのような業務が行われているのかがよく分からないと思います。そこで、不動産業指導室の役割や具体的な業務について、具体的にお聞かせください。
主に、不動産取引にかかわる宅地建物取引業者や、分譲マンションの管理にかかわるマンション管理業者に対する指導・監督を担当しています。これらの業務を営むためには、法律に基づいた免許や登録を受けなければなりません。例えば、宅地建物取引業では、国土交通大臣か都道府県知事の免許が必要になります。業者に対する具体的な指導・監督は、国土交通省の各地域の窓口である地方整備局等や、各都道府県で担当しています。不動産業指導室では、これらの組織が適切に機能するように、連絡・調整や情報収集などを行うことで、業者への指導・監督の全体を統括する役割を担っています。
現在は新制度・施策の周知や消費者への取り組みに力点を
――現在力を入れていること、今後力を入れて取り組みたいことは何でしょう?
不動産業指導室では、新しい制度や施策の周知も行っていますので、当面は10月から施行される「住宅瑕疵担保履行法※」について事業者に十分理解してもらい、円滑に導入できるよう周知活動に力を入れています。
また、今後ますます消費者行政が推進される中で、消費者の側に立った取り組みに重点を置いていきたいと考えています。例えば、マンションの悪質な勧誘販売が問題として指摘されているので、消費者に対して適切な対応が取れるように、行政庁間の連携体制を強化しています。
※特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律
――具体的には、どういった連携体制になるのでしょう?
悪質な勧誘販売については、昨年10月に、国民生活センターから国土交通省や業界団体に要請が出されたものです。例えば投資用マンションでは、販売業者が東京で、物件が仙台といったことがあります。物件がある宮城県に相談をした場合でも、東京都知事の免許で営業している業者であれば、実際の指導・監督は東京都が行うことになります。相談を受け付けた行政庁で対応できないということがないように、相談を受け付けた行政庁と業者を所管する行政庁とが情報共有を図って、対応できるような連携体制作りをしています。
開示されている業者情報を消費者に有効に活用してほしい
――不動産ジャパンでは、不動産会社に関する情報の提供にも積極的に取り組んでいます。例えば、国土交通省などで提供している「行政処分情報」を集約して紹介しています。こうした情報を、消費者はどう活用したらよいとお考えでしょうか?
国土交通省では、業者情報の開示に積極的に取り組んでいます。例えば、2008年6月から「企業情報検索システム」の運用も始めており、インターネット環境を利用して、企業情報検索システムから各社の基本情報を入手できます。また、行政処分を受けていないかなどのネガティブ情報や、具体的なトラブルに対する処分事例についても、一定の情報をインターネットで提供しています。
宅地建物取引業者については、現在は国土交通大臣の免許業者に限定されていますが、2009年度中には都道府県知事の免許業者の情報も開示していく予定です。
ただし、これらの情報はあくまでも各社の一側面に過ぎません。このような情報を参考に、信頼できる業者かどうかを自分自身で判断する必要があるでしょう。
――消費者自身が、開示されている情報を自ら入手して調べた上で、しっかりと判断することが、トラブル防止のためには重要ということですね。実際に、どういった情報の見方をすればよいのでしょうか?
まず、取引をしようと思う不動産会社については、可能な限りの情報を見たほうがよいでしょう。その上で、国土交通省の情報と各社の企業情報を見比べることも、チェックするひとつの方法だと思います。例えば、行政処分情報でいえば、処分を受けたことに対する新たな取り組みを自社のホームページで開示している業者もあります。
そうはいっても、不動産取引は日常的に行うものではありませんので、消費者の皆さんがより安心して不動産取引に臨んでいただけるよう、信頼できる情報をさらに提供していくことが、今後の課題と考えています。
また、国土交通省ではトラブル事例のデータベースを提供していますが、どのような処分や判決を受けたかなど、トラブルの結果が分かる事例を紹介していますので、実際にトラブルにあった際には、解決の糸口として活用していただけると思います。
トラブルに対しては専門機関にアドバイスを求めて冷静な判断を
――それでは、実際にトラブルが起きてしまった場合、消費者はどのように対応したらよいのでしょう?
トラブルを防ぐためには、事前に情報を収集して、しっかりと判断することが必要です。ただし、不幸にしてトラブルに遭遇してしまったら、まずは冷静に状況を整理する必要があります。トラブルに巻き込まれた消費者に、何らかの思い込みがある場合もありますので、客観的な目で冷静に判断することが、早期解決に結びつきます。そのためには、弁護士などの法律の専門家、都道府県や地方整備局などの行政庁、業界団体などに相談し、アドバイスを求めることが第一でしょう。行政庁は民事不介入の原則があり、契約上のトラブルを仲裁することはできません。最終的には、自分自身で問題を解決しなければいけませんので、専門機関などのアドバイスを参考に対処していくことが大切です。
――最後に、不動産ジャパンを利用して不動産取引に臨もうとしている消費者に、アドバイスがあればお願いします。
言い古された表現ですが、不動産に掘り出し物はないということを念頭に、取引に臨むことが必要です。大きな買い物ですから、安いものにも高いものにもそれなりの理由があるということを理解して、しっかりと考えることが重要です。冷静な判断を欠いてしまったことが原因となるトラブルもありますので、些細なことでも納得できるまで不動産会社に質問してください。不動産会社からいかに情報を引き出すかという姿勢で臨むことで、冷静に判断するための情報が得られるとともに、対応する不動産会社の信頼性なども見えてくると思います。
※インタビューの内容は、2009年3月時点の取材によるものです。